死生の問題に出会う仕事について
 
ALSなど難病支援をされている保健師さん相手の研修会をした際に配ったもの。この研修会のために私がにわか勉強で読んだ本のメモです。
 
【緩和ケアとコミュニケーション】
E.キューブラー=ロス 『死ぬ瞬間』(鈴木晶訳、中公文庫、2001年.原著1969年)
C.ソンダース、M.ベインズ『死に向かって生きる−末期癌患者のケア・プログラム』(医学書院、1990[1989]年)
 癌患者中心の記述ではあるが、小冊子で読みやすい。
「死に直面して生きていくことは、精神科的な異常に陥ったことではないので、その診療に精神科的な専門技術を必要とすることは少ない。理解できないと感じたり、何もできないと感じて距離を隔ててみていると、問題のある患者に近づきにくくなり、何もできないと思ってしまう人が多い。しかし、患者の心を理解しようとしていることが示せれば、それだけでも患者にとって十分な助けとなる。患者をケアする側に絶望感があると、患者をそのレベルまで引き落としてしまう。その場合には言葉をかけるより無言のままでいる方が患者にとっては救いになる」(52〜53頁)
「われわれが忘れてならないのは、退屈が心の痛みの大きな原因になることや、打ち明け話や気晴らしになる行為が心の痛みを救う最良の方法だということである」(53頁)
「心の痛みと社会的な痛みの区別は難しい。多くの場合、患者が示す心配は家族に関するものだからである」(54頁)
B.グレイザー、A.ストラウス 『「死のアウェアネス理論」と看護』(木下康仁訳、医学書院、1988年.原著1965年)
鷲田清一 『「待つ」ということ』(角川選書、2006年)
 直接緩和ケアの話ではないけれど。前半だけでも一読をお薦め。
R.バックマン『真実を伝える−コミュニケーション技術と精神的援助の指針』(恒藤暁監訳、診断と治療社、2000[1992]年)
 告知に関して、非常に具体的な指針集。
「悪い知らせを伝えることに熟練するということは、いつも適切にそれができるということではない。熟練した人とは、過ちを犯す頻度がより少なく、また、うまくいかなかった時のフラストレーションが少ない人にすぎない」(5頁)
「真実を伝えることや深刻な病状を知ることが、絶望や自殺などを含んだ重大な危害を患者に与えるという確かな証拠はほとんどない」(8頁)
「興味深いことに、慢性的に希望を喪失した状態は、慢性疾患においては非常に驚くほど稀である」(147頁)
 その他の指針集として、R.バックマン『死にゆく人と何を話すか』(上竹正躬訳、メジカルフレンド社、1990[1988]年)、J.ルートン『ターミナルケアにおけるコミュニケーション』(浅賀薫他訳、星和書店、1997[1994]年)などがある。
 
【ケアの仕事について】
D.チャンブリス 『ケアの向こう側−看護職が直面する道徳的・倫理的矛盾』(日本看護協会出版会、2002年.原著1996年)
A.ホックシールド 『管理される心』(石川准・室伏亜希訳、世界思想社、2000[1983]年)
 サービス業の心理的負担について。ちょっと専門的だが。
D.カラハン 『自分らしく死ぬ−延命治療がゆがめるもの』(岡村二郎訳、ぎょうせい2006[2000]年)
 医療の進歩と死との葛藤について。あまり読みやすくはないが、発見はあるかと。
「死は、必然的で避けようのない医療の終点である。医学は、その適切な目標を考えるに当たって、いわば前向きにも後ろ向きにも同時に配慮しないといけない。医学は今のところ、寿命を延ばすこととその質を改善することの両方を意味する良い生活を推進することを追究して、前向きにばかり働いている」(213頁)
 
【ALSについて】
川口有美子 『逝かない身体−ALS的日常を生きる』(医学書院、2009年)
 直接にALS関連ではないが類似のお薦め書として、西村ユミ『語りかける身体−看護ケアの現象学』(ゆみる出版、2001年)および『交流する身体−ケアを捉えなおす』(NHKブックス、2007年)も。
立岩真也 『不動の身体と息する機械』(医学書院、2004年)
 ALS患者の発言などを集めた部分+立岩氏の論考。全体を読み通すのはたいへん。必要に応じて該当箇所を読む感じ?
「安楽死を認めることの不都合はなにか。第一に、あなたは死ぬことにしてそれでよいかもしれないが、それでは他の人たちが困ることがあるだろう。あなたが死ぬことを認めてしまったら、あなた以外の人もそのように扱われることになる」;「死ぬのを手伝わないとは、人に対するこの社会の対し方がなっていない間、ひとまず待ってもらうということでもある」(394、367頁)
植竹日奈他編 『ALS・告知・選択「人工呼吸器をつけますか?」』(MCメディカ出版、2004年)
「でも、私はあえて思うのです。「生きるも地獄、死ぬも地獄」と言わせないケアが、理想的なケアなんだろうか。「家族に迷惑をかけていきるくらいなら死んだほうがまし」と言わせないケアが、理想的なケアなだろうか。患者の一時的な気の迷いをいちいち真に受けてうろたえるな、ベテランの医療者ならそう言うかもしれません。しかし、私はそうは思いません。「地獄」と言いたくなる瞬間があることも含めて現実を引き受け、「死んだほうがまし」と思ってしまうひとときがあることもあわせて自分の人生として受け止めている人たちがいるのです」(玉井真理子、181頁)
「生きる力」編集委員会 『生きる力−神経難病ALS患者たちからのメッセージ』(岩波ブックレット、2006年)
 小冊子で読みやすい。
「大人が思うほど子どもは弱くないです。大人より子どものほうが精神的に強いと思いました」(和中勝三、67頁)
「在宅療養、施設入居、いずれにしても介護体制が整えば「ALS人生」と呼べる生き方があると思います」(横山勇夫、110頁)
中島孝監修 『ALSマニュアル決定版!』(日本プランニングセンター、2009年)
 
【生命倫理全般の入門書】
玉井真理子・大谷いづみ編 『はじめて出会う生命倫理』(有斐閣、2011年)
 
[Oct/2010; Apr/2011]

> 書籍紹介の扉にもどる