「社会構成主義」の周辺
 
 「社会構成主義」とか「社会構築主義」といったことば、ありますね。正直、あまり好きになれないことばです。「本質主義」とか「基礎づけ主義」といった相手方のほうはまだ意味が分かるんですが、「社会構成主義」と称される考え方は、「主義」とか言われる種類の、選択可能な立場ではないんじゃないかと思うんです。
 ……なんて、とりあえずゴネてみましたが、よく訊かれることではあるので(社会構成主義という学説上のカテゴリーにはこだわらず)その「考え方」を知るヒントになる本を紹介しておきます。
 
V.バー『社会的構築主義への招待』(田中一彦訳、川島書店、1997年、原著1995年)
 言説分析寄りの入門書。
K.ガーゲン『あなたの社会構成主義』(東村知子訳、ナカニシヤ出版、2004年、原著1999年)
 おなじく入門書だが、バーよりも読みやすいかも。英語では第2版が出ているもよう。
P.コンラッド、J.シュナイダー『逸脱と医療化』(進藤雄三監訳、杉田聡・近藤正英訳、ミネルヴァ書房、2003年、原著1980年)
 タイトルのとおり。
E.ゴッフマン『スティグマの社会学』(石黒毅訳、せりか書房、改訂版2001年、原著1963年)
 逸脱的アイデンティティ。
D.サドナウ『病院でつくられる死』(岩田啓靖、山田富秋、志村哲郎訳、せりか書房、1992年、原著1967年)
 発想が分かりやすい。
A.シュッツ『社会的現実の問題T』(渡部光他訳、マルジュ社、1983年、原著1973年)
 現実の社会的構成。
P.アリエス『〈子供〉の誕生』(杉山光信・杉山恵美子訳、みすず書房、1980年、原著1960年)
 社会史の古典。
保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー』(御茶の水書房、2004年)
 歴史学というか人類学というか。
野口裕二『ナラティブの臨床社会学』(勁草書房、2005年)
 臨床を念頭に。
J.バトラー『ジェンダー・トラブル』(青土社、1999年、原著1990年)
 フェミニズムから。
岡真理『彼女の「正しい」名前とは何か』(青土社、2000年)
 第三世界フェミニズム?
 
 こういう私的なリストは偏っていないとおもしろくないとおもいながら書きましたが、分野としての構成主義/構築主義をちゃんと知りたい方は、フーコーだバーガーだキッセだ中河だといったほかの基本図書にも当たってください。社会学学説上でのカテゴリーの整理については、上野千鶴子編『構築主義とは何か』(勁草書房、2001年)の上野論文が便利だった記憶。→記憶ちがいで、千田論文でした。[May/2011; Feb/2013]

・・・・・・
 追加です。
K.ガーゲン、M.ガーゲン『現実はいつも対話から生まれる』(伊藤守監訳、青土社、2018年)
 なかなか説明のしにくい構成主義/構築主義ですが、これは分かりやすい。もちろん分かりやすさの代わりに犠牲にしているものがあって、人間に共通する世界の存在という問題を早々と捨て去ってしまっているのだけど、だからその分、分かりやすい(話がループ)。そこをもっと掘り下げる構成主義/構築主義の立場だってある。かなり実践寄り・応用寄りの立場に偏っていて、それがこの本の良いところでもあり、注意が必要なところでもある。そういう心配はありつつも、あれこれトータルして言うと、これはお薦めできる入門書だ。
 
赤川学『社会問題の社会学』(弘文堂、2012年)
 社会構築主義の応用法のひとつ、スペクターとキッセ以来の「社会問題の構築主義」、その簡便・有益な入門書。ありがたい一冊。[Jan/2019]
 
> 書籍紹介の扉にもどる