統計データの読み方・扱い方
 
 統計に関する参考書をいくつか。まず、統計データといってもいくつかの種類があり、それぞれまったく性質がちがっているということを踏まえておく必要があります。『最強の学問』の西内啓氏のやり方に従えば、統計学には次のような六つの分野があります。
 
(1) 「実態把握」を行う社会調査
(2) 「原因究明」のための疫学・生物統計学
(3) 抽象的なものを測定する心理統計学
(4) 機械的分類のためのデータマイニング
(5) 自然言語処理のためのテキストマイニング
(6) 演繹に関心を寄せる計量経済学
 
 社会学一般でよく出てくるのはなんといっても(1)の社会調査で、それに(2)の疫学的手法や(3)の心理統計学の手法が続くといったところでしょう。
 (1)の社会調査に関しても、国勢調査のような行政調査と、研究者などが行う学術調査、さらには企業などが行う市場調査とでまた性質が変わってきます。それぞれについて用いられている手法の複雑さもさまざまです。
 

 
 さて、社会学の分野で統計に関わるしかたとして、よくあるパターンはこんな感じですね。
(a) 統計学の手法ひととおりに詳しくなり、自分で実際に調査・分析を行いたい。
(b) 統計学の手法に詳しくないが、使える手法の範囲で実際に調査・分析を行いたい。
(c) 統計学の手法に詳しくないが、論文などに出てきた統計データの読み方を知りたい。
 
 私は統計の手法については素人ですので、(a)の人にはアドバイスできません!・・・・・・といって、本当は統計学の手法に詳しくないと(b)や(c)の人にもアドバイスできるはずがないんですが、私自身がどう乗り切っているかという話として、知っている範囲の参考書を紹介しておきましょう。なかなかズバッとこれ一冊というのはなくて、そのときどきの必要に応じて複数の参考書を当たらねばならないですね。
 
 先に、(c)「統計学の手法に詳しくないが、論文などに出てきた統計データの読み方を知りたい」という場合、統計学の手法をきちんと説明した本のなかに該当の箇所をみつけて、その「意味」を理解するということになります。つまり統計学の教科書を辞書として使う感じですね。複雑・高度すぎて、読んでも「意味」すら分からないものは、残念ですが理解を諦めるか専門の人に解説してもらうほかありません。
 社会調査に関してもっともポピュラーな教科書は■原純輔・海野道郎『社会調査演習 第二版』(東京大学出版会、2004年)などですが、辞書として(?)参照するなら以下あたりがより包括的です。本当は全部マスターしたら、ちゃんとした社会統計の人になれるんでしょうけども。
■ 東京大学教養学部統計学教室編『統計学入門』(東京大学出版会、1991年)■ 東京大学教養学部統計学教室編『人文・社会科学の統計学』(東京大学出版会、1994年)■ 太郎丸博『人文・社会科学のためのカテゴリカル・データ解析入門』(ナカニシヤ出版、2005年)
 最近、文庫化された■盛山和夫『統計学入門』(ちくま学芸文庫、2015年)は、解釈法と実践法の説明のバランスが良いですね。
 もう少し実験寄りの本では、■田中敏『実践心理データ解析 改訂版』(新曜社、1996年)が社会調査と共通する部分の説明も丁寧です。■豊田秀樹『購買心理を読み解く統計学―実例で見る心理・調査データ解析28』(東京図書、2006年)は、いろいろな分析手法が羅列されていておもしろい。
 
 次に、(b)「統計学の手法に詳しくないが、使える手法の範囲で実際に調査・分析を行いたい」という場合。つまり単純集計をしたり、簡単な手法で相関を検証する程度の社会調査を行う場合は、■森岡清志『ガイドブック社会調査第二版』(日本評論社、2007年)が平易かつ広汎で便利です。このあたりをベースにしながら、先に挙げたより詳しい教科書の必要部分を学んでいけば、実態把握程度の調査はなんとかなります。
 社会調査特有の誤差、標本数を増やすだけでは解消できない非標本誤差については、■吉村治正『社会調査における非標本誤差』(東信堂、2017年)が便利で丁寧な良書です。これからこの主題のスタンダードになりそうですが、まだ出版されたばかりなので赤字ハイライトにしておきました。
 シンプルな手法を活かすやり方や、調査結果のまとめ方については、■H.ザイデル『数字で語る―社会統計学入門』(佐藤郁也訳、新曜社、2005年)が勉強になります。
 
 統計データを読むときにも得るときにも心しておきたいのは、人文社会科学の領域で本当に統計の手法を活かすには、かなりの規模のデータがあるか、あるいは周到に調査デザインが練られているか、いずれにしても普通思われているよりもだいぶ難しいということです。「社会調査の過半数はゴミである」という谷岡一郎さんの言葉が真実であるゆえんです。
 

 
 ここまでは統計や調査の手法に関わる参考書でしたが、統計の発想法を学ぶには次のような本がお薦めです。まず、■西内啓『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社、2013年)はベストセラーになりました。■J.ローゼンタール『運は数学にまかせなさい』(中村義作監修、ハヤカワ文庫、2010年)は、読み物として読めます。
 実験的な方法における検定やバイアスの問題は、■佐藤俊哉『宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ 検定の巻』(岩波書店、2012年)が分かりやすく説明しています。■津田敏秀『市民のための疫学入門』(緑風出版、2003年)は、ちょっと異議を挟みたくなる部分がなくもないですが、おおむね説明は分かりやすく、扱っている分野も広いです。
 
 社会調査関連では、「ツッコミ」を入れながらデータを読みとく、人気の本がいくつもあります。■谷岡一郎『「社会調査」のウソ』(文春新書、2000年)、■P.マッツァリーノ『反社会学講座』(ちくま文庫、2007年)あたりは、古本屋さんでもたくさん出回っていて手に入れやすいです。■S.レヴィット&S.ダブナー『ヤバい経済学』(望月衛訳、東洋経済新報社、増補改訂版2007年)は、経済学というより社会学としておもしろい。なお、『ヤバい社会学』の方はむしろ都市のフィールドワーク話で、ぜんぜんテイストがちがいます。ひたすら相関図でデータを紹介する■本川裕『統計データはおもしろい!』(技術評論社、2010年)は眺めていて飽きません。新聞などに毎日現れる経済データに関しては、■鈴木正俊『経済データの読み方 新版』(岩波新書、2006年)が必携の便利本だとおもいます。
 

 
 以上、素人の私が手にとった範囲内でのお薦め本でしたが、さらにいい本の情報や、詳しい方からのご意見などいただけましたら嬉しいです。
 
[Apr/2015; May/2018]
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