「ホーランエンヤを支える人」インタビュー

インタビュー協力:松江城山稲荷神社式年神幸祭奉賛会 事務局長 渡利隆司氏
インタビューの実施・まとめ: 教育学部 二回生 武林 諒

 島根県松江市の一大祭事であるホーランエンヤを支える側の視点と題し、渡利さんにインタビューを行った。インタビューとしては、インタビュアーである私が祭りに対して気になっている点や渡利氏の祭りに対する思いや願望、祭りの将来のビジョンについて渡利氏が自由に話してもらう対談形式で話を聞いた。
 
【祭りの概要】
 インタビューをする際に、渡利さんが初めに説明されたのは祭りの内容と歴史であった。ホーランエンヤの祭りの起源は、松江藩の藩主である松平直政による五穀豊穣の祈祷である。祈祷のために、松平直政が川を渡って神社に行く際に農民が船を出し、松平直政の船を守ったことが船神事の起源となっている。全国の船神事で起源が判明しているのは、松江のホーランエンヤのみだと渡利さんは語った。
 祭りの内容としては、松江城山稲荷神社のご神体が川を渡り、阿太加夜神社で7日間にわたる祈祷が行われる。川を渡る際にご神体を守る船が5つの地域(馬潟、矢田、大井、福富、大海崎)から出され、船神事として5つの地域がそれぞれ独自の唄や舞を披露しながら神社へと向かう。祭りは、「渡御祭」「中日祭」「還御祭」の3つに分かれ、ご神体の行き帰りである「渡御祭」と「還御祭」に船神事が行われる。祭りの正式名称は、松江城山稲荷神社式年神幸祭である。そのため、祭りのメインとなるのは船神事ではなく、7日間にも及ぶご神体の大祈祷である。しかし、その大祈祷は非公開とされおり一般の人は見ることができない。
 
【船神事】
 船神事を行う5つの地域は五大地と呼ばれており、船神事を行う船には一隻あたり30強から40人の男性だけが乗組員として構成されている。船首では衣装をまとった男役が櫂を剣のように縁取った剣櫂を持ちダイナミックな舞を披露し、船尾では女役が采振りと呼ばれる華やかな舞を見せる。この舞をするのは、15〜18歳のかつての元服を迎えた中高生である。それ以外に、小学生などの児童は笛や太鼓を叩き、青年以上の大人は船をこぐ。船中央では、舞の唄を歌う歌い手と船頭が船を操っている。船神事で男役、女役が身にまとう衣装・かつら・化粧は、京都の時代劇で有名な太秦のプロの手によって支えられている。本番当日でも、京都からプロを派遣して衣装を着付ける。渡利さんによると、元々は派手な衣装や装飾は無かったが、祭りを盛り上げるために今のような形となった。
 近年では、五大地も過疎化や少子高齢化の波を大きく受けている。渡利さんは、特に福富地区の人不足は他の地区と比べて深刻な状態であると言う。しかし、人不足に陥っているが、他地域から人を借りて祭りに参加することはほとんどない。あくまでも、五大地出身者で船神事を行うことが祭りのしきたりである。 船神事に欠かせない唄や舞のルーツは一緒であったが、昔はそういったものは映像や音声で残すことができず、人伝えでしか伝承することができなかった。ホーランエンヤは祭りのスパンが長いため、教える側の記憶違いや付け加えの部分が発生した。そのことが、伝承する内容を少しずつ変化させ、今では各地域オリジナルの舞や唄になっていったのではないかと渡利さんは考えている。
 
【祭りと行政】
 祭りを中心となって動かすのは、市役所と商工会議所である。その次に、観光協会と城山稲荷神社と阿太加夜神社の両神社関係組合になる。特に、市役所が中心となって動く部分が多い。市役所は、祭りの広告や当日の交通規制、警備などのインフラ整備を中心に祭を動かす。市役所は職員総出で当日の警備や運営を行う。さらに、警察や警備会社と連携して祭り全体の警備も行う。警察側は、県内の地域課や交通課などを動員してスリや将棋倒し、橋からの転落を未然に防ぐ。その他にも警察は当日に三隻ほど船を出し、川の上からも警備を行う。祭りにおいて安全が一番であるため、当日は市役所、警察、警備会社の三つが一体となって観光客や水上の船を守る。
 
【祭りの予算】
 予算の部分は市役所が商工会議所と連携して検討していく。今年の祭りの予算は、約2億円となっており、その半分の1億円を市役所が使用する。残りの予算は、商工会議所や備品、道路整備、人件費、五大地の支援金などに回される。この予算は、中国電力、山陰合同銀行、山陰中央新報、TSKその他にも多くの地元企業の融資によって成り立っている。これほど多くの企業が出資していることを見ても、ホーランエンヤが松江にとってどれだけ大切にされ歴史がある祭りなのかが分かる。ちなみに、阿太加夜神社と城山稲荷神社が使う予算は1500万円である。
 
【阿太加夜神社】
 城山稲荷神社からご神体を運び、祈祷を行う阿太加夜神社は今の東出雲町にある。阿太加夜神社では、「中日祭」の目玉の一つである陸行列われる。これは、阿太加夜神社の艇庫に車輪のついた船が収納されており、陸にある船を使い船神事の舞を披露する。この陸行列は、平成9年に「中日祭」のイベントをしてお客さんに来てもらいたいということから始まった。「中日祭」では陸行列だけではなく、阿太加夜神社の前の川で規模は小さいが船神事も行われる。
 阿太加夜神社の予算は、東出雲町の財政で賄っていた。しかし、東出雲町は平成の市町村統合によって、2011年(平成23年度)に松江市に合併された。そのため、今年の祭りを機に阿太加夜神社単体で集めていた資金を城山稲荷と一緒に集めることとなった。前回の祭りより財政が困難になることに渡利さんは危惧している。  
 
【祭りの経済効果と店】
 今回のホーランエンヤによってもたらせれる経済効果は約30億円にもなる見込みだと渡利さんは言う。今までにこのようなことを指標化したことはないが、今回の祭りからは正確な数値を出したいと言われた。しかし、日本投資銀行での経済効果を図るための費用が200万円かかってしまうことから、予算を検討しながら進めていく。前回(平成21年度)の祭り集客数は約30万人であり、そのうち1/4が他県からの観光客であった。祭り期間中では、旅行会社、バス、タクシー、旅館、ホテルなどの売り上げは長期休暇の倍になるのではないかと予想される。
 地元のスナックのママによると、スナック、バー、キャバクラなどの夜の店は、「渡御祭」「中日祭」など祭り前半の売り上げは普段とあまり変わらない。しかし、祭りの後半になると打ち上げに使われるようになる。そのため、売り上げは祭りの後半に上がると予想される。
 ホーランエンヤでは橋や道など川沿いに人が多く集まり、人であふれる状態になる。そのため、歩道や路肩などでは、店のスペースの確保ができない。さらに、露店が立ち見の邪魔となる。露店はNHKの前などの開けた広いスペースが確保できる場所に出店している。個人経営の居酒屋などは、自分の店の前にビールや飲料など場所を取らないものを出している。

【祭りと地域】
 ホーランエンヤは、10年や12年に一度の祭りであるため、地元は大いに盛り上がりを見せる。今回の祭りでは、渡利さんなどの働き掛けもあり、多くの地元飲食店をはじめとする商店街が祭りと協力してより盛り上げを見している。特に、船が通る川沿いの京店商店街は各店にポスターを張るだけではなく、祭りとコラボした限定商品や新商品の開発を行っている。地元酒造店の豊の秋は、ホーランエンヤ特別酒を販売する。その他にも、地元米を使ったホーランエンヤ米や五大地Tシャツ、ホーランエンヤタオル、ホーランエンヤタンブラーなど関連商品を祭り限定で販売する。さらに、祭りの期間中に京店商店街の広場に3 mもの巨大なホーランエンヤのタペストリーを張る予定である。渡利さんは、祭りを地元が一体となって盛り上げることが、今後の祭りにとっても重要なことであると話した。  
 
【祭りのマル秘スポット】
 ホーランエンヤは川を横断する祭りのため、船が通る川沿いや橋の上に多くの人が集まる。そのため、川沿いで船を間近に見ることができない可能性がある。さらに、場所によっては川の端や川底が低いところも存在する。そのため、船が近づくことができず、迫力のある舞などを遠目でしか見ることができない。大橋の近くでは、中洲によって船の進路を二分される。それによって、左右のどちらかの川岸からしか船が見えない状態になる。そこで、渡利さんから船神事を満喫できる場所を教えてもらった。それは、阿太加夜神社の近くの意宇川の川沿いである。そこは、観光客が少なく地元民しかいないため、船が川沿いの間近に来るため迫力のある船神事を見ることができる。
 
【祭り当日の心配ごと】
 渡利氏が祭り期間中の心配ごととして、祭り当日の一般の参加者によるドローン撮影を挙げている。祭り当日には渡利さんなど奉賛会でドローンを飛ばし、より良い映像を撮る予定となっている。しかし、一般の人がドローンを飛ばすことによって、ドローン同士の接触や墜落が懸念される。島根県の各市町村のドローン飛行に対する規制は、都市部に比べてそこまで厳しくはない。しかし、ドローン撮影には各市町村の許可が必要となる。そのため、そのことを知らない一般の参加者によるドローン撮影に関して不安な部分がある。
 
【将来の祭りについての思い】
 渡利さんは、このホーランエンヤという祭りに対して、全国でも類を見ないくらいの規模の大きさと歴史の深さを持っていると感じている。祭りの一環として、地元の人に祭りの歴史や五大地の活動を知ってもらうとともに、小学生に地域教育の一環としてホーランエンヤのことを学んでもらいたい。そのために、松江の教育委員会と連携してホーランエンヤという祭りを小・中学生に知ってもらいたいと考えている。今回の祭りで370年目となり、400年目の節目の年に近づいている。節目の祭りの際には何か大きなことを行い、よりこの祭りを全国へ知ってもらいたいと考えている。節目の年に大きなことを行うためにも、ホーランエンヤ基金を設置して積立式に資金集めを行い、多くの人に支援してもらい支えてもらいたいと渡利さんは考えている。
 
【インタビューを行って】
 実際にインタビューを行ってみて、渡利さんのホーランエンヤという祭りに対する熱い気持ちがひしひしと伝わってきた。私は他県出身のため、ホーランエンヤの話がとても新鮮だった。ホーランエンヤは、渡利さんたちのような大人の熱い思いが、祭り全体を突き動かしていると感じることができた。地元の方にも、一つの郷土愛として今回の祭りを機にホーランエンヤことをより知ってもらいたい。このインタビューは急遽行ったことだったが、快く引き受けて下さった渡利さんには心から感謝申し上げたい。


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