木村 佳則
ホーランエンヤ体験記/2009年5月24日、還御祭


 
 
 5月24日(日)は、ホーランエンヤの最後、還御祭である。天気は今にも雨が降りそうな感じである。神事が行われる神社には、渡御祭の終りの阿太加夜神社の時の様子と比べて、人もあまりいないように感じる。神事には興味がないという人が多いのだろう。阿太加夜神社の氏子と城山稲荷神社の氏子がそれぞれいた。阿太加夜神社の氏子は、城山稲荷の氏子(新橋・北堀)よりもリラックスしているように見えた。神事の中でも煙草も吸っていたし、普通におしゃべりをしていた(写真21)。それに比べ、城山稲荷の氏子は真剣に神事に向き合っていた(写真22)。神輿行列の先頭は鏡と決まっているみたいだ。そして、順番は同じである。神主は結構張り切っているようで、テキパキしている。しかしながら、途中、箱みたいなものを忘れる場面も見られた。マスクをしている神主もいた。普通のマスクとは違う(写真23)。外国人も多く、島根大学の英語専攻の学生とともに見物していた。
 
写真21 阿太加夜神社氏子(リラックス)写真22 城山稲荷神社氏子(真剣)写真23 特殊なマスクをする神主
 
 神輿行列は松江に向かうために船に乗り込む。櫂伝馬踊りを意宇川で披露する。これを見るために、たくさんの人が橋の上、岸に群がっていた。お年寄りが多いような気がした。小さな子どもは親に肩車をしてもらって櫂伝馬踊りを目に焼き付けていた。踊りの内容は相変わらずである。最後だからか、踊りに一段とキレがあるように感じた。神輿船は櫂伝馬船が周る中央に位置していた。櫂伝馬船が終わり、船団は松江市城山稲荷神社に向かう。 私達が松江に向かおうとした時、急に強い雨が降り出した。多くの人が予想外だったようで、準備不足でずぶ濡れになっていた人もいた。大橋川南岸は初日の時ほどの人はなく、進みやすかった。櫂伝馬船の乗組員はカッパを着て、踊りを行っていた(写真24)。北側にアピールプレイが集中していたように感じる。地区ごとに応援し、自分の地区の船が来るとひときわ盛り上がる。
 
写真24 福富櫂伝馬船(カッパ着用)写真25 松江にて 傘をさす見物人
 
 松江に戻るともうすでに橋の上、川の周りには人が押し寄せており、雨の中で傘をさしながら見ていた(写真25)。そのせいか余計に人が多くなったように思え、密度の高さ・圧迫感をおぼえた。場所取りができなかったため、あまりいいポジションで松江での櫂伝馬踊りを見ることはできなかった。橋という橋に、相変わらず人だかり。そこがなんだかんだいって絶好の場所なのかもしれない。雨だったためかわからないが、櫂伝馬船の中に化粧直し船が出ていた。新たな発見である。
 
 櫂伝馬踊りが終わりに近づくと、城山稲荷神社に向かう人もいる。神社に向かう通りは混雑した。神輿が上陸するポイントには、人が集まり、周辺の警察官、ホーランエンヤスタッフが相当な数動員されていた(写真26)。陸行列を一通り見たが、渡御祭の時と道具などの順番は同じであった。
 
写真26 警戒を強める警察官写真27 城山稲荷神社の鳥居・参道
 
 松江城二の丸でも櫂伝馬踊りが披露されているようだったが、境内への入場が規制されそうだったため、急いで境内に向かった。城山稲荷神社のところに幟が並んでいた(写真27)。神事は厳かに執り行われ、少々ピリピリした感じである。神事というものは長く感じる。終わると和やかに氏子、神社関係者など、それぞれで記念撮影をしていた。それから奉納踊りが始まるまでの時間は長かった。
 
 ついに奉納踊りが始まった。絶好のポジショニングである。馬潟、矢田、大井、福富、大海崎の順で行われた。いつもと違う順である。剣櫂の勇壮な姿、采振りの華麗な舞、太鼓の奏でる軽快な音楽が奉納された。船の上とは違う迫力、雄大さを感じ、掛け声もはっきりと聞こえた。順番にやってくれるため、違いが分かりやすいと思った。すべての地区が終わるとみんなホッとした様子、雰囲気が伝わった。剣櫂、采振りなど踊り手や乗り手が集結して、万歳三唱で締めくくった。各地区の剣櫂や采振りが一同に会すと、さらに凄味が増す(写真28)。祭り全体が終わり、衣装のままでバスに乗ったり、町中を歩いたりと、それまで櫂伝馬船の上でヒーロー的存在だった五大地の人々もすっかり普段の様子に戻っており、祭りの終りを実感した(写真29)。祭りのパワーのすごさを感じる。
 
写真28 集結する踊り手写真27 帰る櫂伝馬船
 
●還御祭のまとめ ○まとめ
 
 全体を通して、非常にハードスケジュールの中、体力的にきついこともあったが、精神的な疲労はあまり感じなかった。特に櫂伝馬踊りを見物している時は特にそうである。神事の時は少し退屈感もあったため、疲れた。松江にこんなに人が集まる時は、そうないだろうと思うくらいほどの人の数だった。これがホーランエンヤの力、魅力なのかもしれない。櫂伝馬船に乗っていた踊り手の多くが若者ということで、新しい時代を担っていこうとする意志を感じるとともに、それを支える地区の大人たちの気持ちが伝わった。12年に一度の祭りにふさわしい櫂伝馬踊りと神事の厳かさを感じ、改めて江戸時代から続く歴史の重さ、素晴らしさを思い知らされた。これを見ただけで終わることなく、後世に残していけるようにしていきたい。渡御祭・中日祭・還御祭を終えて、きつかったという気持ちもあるが、見てよかったという充実感を持っている。12年に一度のこの年に、島根大学にいたことを感謝したいと思う。ホーランエンヤは、松江市の大事なイベントであることは間違いない。櫂伝馬踊りの技術、剣櫂や采振りなどの振り付けや衣装からうかがえる歴史のみならず、その中に息づく五大地の人々のホーランエンヤに対する責任感というか、継承していかなければならないという義務のような精神部分の歴史もホーランエンヤの伝統として、長く後世に、大切に残していくべきではないだろうか。そのためにも、五大地(馬潟・大海崎・大井・矢田・福富)には、これからも頑張ってもらいたいものである。
 
 
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