副題「高度成長から社会運動、推し活ブームまで」、中公新書、2024年。「消費者的態度」の浸透は、現代社会の動向を理解するための鍵のひとつで、このような社会史的な研究も大事。
序 章 利益、権利、責任、そしてジェンダー
第1章 消費者主権の実現に向けて―一九六〇年代~七〇年代初頭
1 高度経済成長と消費革命
2 消費者主権という理念
3 日本消費者協会とかしこい消費者
4 ダイエー・松下戦争の構図
第2章 オルタナティブの模索と生活者―一九七〇年代半ば~八〇年代半ば
1 石油危機後の日本経済と生活の質
2 生活クラブの消費材
3 大地を守る会と有機農業運動
4 堤清二のマージナル産業論
第3章 お客様の満足を求めて―一九八〇年代後半~二〇〇〇年代
1 長期経済停滞への転換と消費者利益
2 顧客満足の追求とそのジレンマ
3 セブン-イレブンにとってのお客様
4 お客様相談室の誕生
終 章 顧客満足と日本経済―二〇一〇年代~
1 現代史から見えたもの
2 新たな潮流―エシカル消費、応援消費、推し活
消費者の利益、消費者の権利、消費者の責任という三つの観点を軸にしつつ、次のような時代区分のもとに構成されている。
1960年代~1970年代初頭:消費者という言葉が社会的に定着していく時期
1970年代半ば~1980年代半ば:消費者に代わって生活者という言葉が使われるようになった時期。
1980年代後半~2000年代:企業レベルではお客様という捉え方が広がっていく時期。
「1960年代の消費革命のなかで、買物上手たるかしこい消費者の育成が、有効な面をもったことは間違いない。主婦による消費者としての主体的な対応が、固有の歴史的役割を果たした意義は強調されるべきである。家庭でのケアを果たすべく、消費の専門家たることを期待された主婦が、自負とやりがいを持って幸福な生活の実現に努力したことは、消費革命に伴う不安や不安定さを緩和していく意味をもったであろう。しかし同時に、かしこい消費者という規範は、権利なき主体化を促す規範として作用した。そもそも消費者が企業との関係で構造的な弱者であるという事実は、その規範の作用によって見えにくいものとなる。」(52)
1990年代以降の消費者団体の退潮、「消費者団体の退潮は、アマチュア女性によるボランタリーな活動の限界によるところが大きかった。消費者=主婦という認識に依拠してきた活動のあり方は、男性を運動に引き込むことを妨げ、たとえば主婦連が規約改正で男性の入会を認めたのは、ようやく2000年になったからであった」(160)、また「消費者問題が高度化・複雑化するなか、運動の側にも高度な専門性が不可欠になっていたのである」(161)。
「お客様という言葉には、①消費者=主婦という固定化された消費者像を相対化すること、②対抗的な利害をもつ機能集団ではなく、情緒を含んだ生身の人間として対象をイメージすること、③権利や責任の主体としてではなく、もっぱら企業の顧客としての対象を捉えようとすること、という三つの意味が含まれていたと言えよう」(175)。
「顧客満足(CS)という理念の広がりは、そうした歴史的文脈のなかで、サービス経済化の進展に対応する意味をもった。しかし、そこでの満足が社会的に見て望ましいかどうかはさしあたり視野の外に置かれ、企業は顧客の不満や非満足の改善に注力した。それは、消費者利益の複雑な内実に向き合うことを棚上げする国民経済レベルの発想と、表裏一体であったと考えられる」(219)。
具体的に取りあげられている人物は、暮らしの手帖の花森安治、ダイエーの中内功、松下電器の松下幸之助、生活クラブの岩根邦雄、有機農業の一樂照雄、パルコや無印良品の堤清二、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊、セブンイレブンの鈴木敏文など。
この分野の重要文献として、原山浩介『消費者の戦後史』(2011年)が挙げられている。
[J0548/241213]
Leave a Reply