副題「法哲学的思考への誘い」、法律文化社、2013年。

序章 「心の内戦」と「法の力」
第1章 「なぜ」という問いの意義
第2章 殺してはいけない「人」とは何か
第3章 「殺す」とはどういうことか
第4章 「いけない」とはどういうことか
第5章 法的正義と法的責任

メインタイトルはあまり正確ではなくて、副題の方が的確な、法と法の効力に関する哲学的議論のテキストブック。

めちゃめちゃ断片的なメモ。

「「社会の再発見」とは、政治思想史の文脈における S.S. ウォーリンの言葉であるが、その趣旨は、人々が宗教的観念をもとにして人間関係を一種の有機体としてみる見方から、自分たちの信条によって成立する政治秩序とする見方を経て、再度、政治的なものとは別個独立に、無数の社会的権威を基礎として成立するとする見方が復権してきたことを指している」(38)。

「フランスの人権宣言は、一方ですべての成員の平等な人権保障、しかも経済的な面における実質的平等を求める社会主義的な要素をもっている。その意味では、マルクス以降の社会主義的革命がフランス人権宣言の正当な後継者を任じていたこともうなずける。そして実際、フランス人権宣言の影響を受けたヨーロッパ諸国では、個々人の自由な行動と成員の経済的平等を同時に保障しようとする、いわゆる社会民主主義的な方向を歩んできたと言うことができる」(70)。

「普通、法は直接的にある行動を禁止することはない。殺人にしても、刑法は「殺してはならない」とは言わずに、ただ「・・・・・・刑に処す」とするだけである。この点から見ると、法律は人間の行動を規制する「行動規範」ではなく、裁判において判決を下すために裁判官に向けられた「裁判規範」である」(104)。

「例えば、本書のテーマである殺人の禁止について言えば、この禁止規範はいついかなる場合でも妥当するわけではなく、死刑や戦争における殺害は許容される場合がある。・・・・・・「人を殺すこと」が直接自然法によって禁止されているかというと、どうもそうではないように思われる。ただし、殺人が例外的にではなしに一般的に許与されてしまうと、社会秩序が維持できなくなる。すると、自然法的な考え方では、原則と例外の区別が問題になってくる。そこからすると、この原則と例外の区別を正当に行うことができるか、また誰がその区別をすることが正当なのか、が問題となる」(111)。

[J0534/241111]