ちくま文庫、2009年。底本は、2005年。秋山真之をもちあげた、司馬遼太郎『坂の上の雲』を吊し上げる。本書を読むと、日本海海戦の結果はロシア側の軍人たちも予想していたことであり、むりやりにバルチック艦隊を遠征させたニコライ2世の判断が一番の要因だったという印象になる。

近代戦艦の歴史
日清戦争の黄海海戦
砲術の進歩
日本人だけが崇めるマハンの海軍戦略の実像
米西戦争
東郷平八郎
日露両海軍の戦略
機雷の攻撃的使用
旅順艦隊の全滅
バルチック艦隊の東征
日本海海戦

身も蓋もないことをいってしまうが、個々の戦闘結果の「理由」をまともな歴史学の基礎のうえに語るのは無理、不可能。一方で、交戦くらいみんなが語りたがるおもしろいトピックもなく、このへんに「沼」が生まれる理由もある。

同時代の、情報に満ちあふれた、プロ野球の試合結果ですら「勝利の理由」など特定しがたいのだからね。はるかに情報が乏しいだけでなく、一方で情報が隠され、迷彩を施し、一方で大いに脚色や誇張されもする、実際の戦闘場面のことなど、事実確認をちょっとずつ進めることでやっとでしかない。わくわくはできないかもしれないけど、それがまともな歴史感覚、もしくは歴史学的感覚というものだろう。

[J0573/250321]