副題「産育習俗の歴史と伝承「男性産婆」」、社会評論社、2009年。2012年に増補改訂版が出ていたのか、それはしまった。そちらの方は論文「近代出産文化史の中の男性産婆」が追加されているとのこと。

本書は、著者による「叢書いのちの民俗学」の第一巻となっている。第二巻は『長寿:団子・赤飯・長寿銭/あやかりの習俗』、第三巻は『生死:看取りと臨終の民俗/ゆらぐ伝統的生命観』。

第1部 出産儀礼
 いのちの民俗学:新しい生命過程論の模索
 通過儀礼の新視角
 出産から学ぶ民俗
第2部 産育の歴史
 いのちと出産の近世:取揚婆、腰抱きの存在と夜詰の慣行
 トリアゲバアサンから助産師へ
第3部 伝承・男性産婆
 トリアゲジサの伝承
 赤子を取り上げた男たち:群馬県における男性産婆の存在形態
 民俗研究と男性産婆
 男性産婆の伝承

なんといっても、男性産婆の話がおもしろい。たんに単発の伝承としてではなく、実在した男性産婆のことを取材しているのも凄いし(肖像写真まで!)、著者が発見と調査を進めていく過程が記されていることにも価値がある。事例研究から進んで、産育をめぐる通念や、羞恥心のあり方までを捉え直すところにまでいたっている。

「私が男性産婆の調査を始めた当初、男性産婆というのはきわめて特殊な事例と認識していたが、事例が蓄積されるにつれ、助産は女性に限るという通念そのものを再検討する必要性も生じてきた」(184)。

[J0554/250125]