Month: January 2021

前田健太郎『女性のいない民主主義』

岩波新書、2019年。

第1章「政治」とは何か
第2章「民主主義」の定義を考え直す
第3章「政策」は誰のためのものか
第4章 誰が、どのように「政治家」になるのか

なるほど、ジェンダー平等論の新世代というかんじ。声高にジェンダー平等を叫ぶという感じがないのは、じゅうぶんに気づかれてない女性排除の現状をひとつひとつ確かめるという意図からか。

想定されている読者のひとつは従来の政治学で、この本は政治学にジェンダー的観点の必要性を述べる際の基本図書になるだろう(というか、もうなっているのかもしれないが)。もうひとつは一般読者層で、政治理論と日本政治におけるジェンダー配置の実態を知るのにいい入門書になっている。当然、意識的あるいは無意識的な「フェミ嫌い」にまで響くかというとそれは最初から難しいことで、その層の説得に肩肘張る風でないのが、むしろこの本の利点のように思う。

政治設計の諸理念・諸理論に加えて、「たまたま」そうなってしまったという制度上の経路依存性の側面にまで目を配っているところもおもしろい。この経路依存性への配慮もまた、「私たちとあいつら」を区別して「ジェンダー意識の低さ」だけを糾弾する論法から、この書の議論を区別している。

[J0128/210131]

竹村民郎『増補 大正文化 帝国のユートピア』

三元社、2010年。1980年に出版された『大正文化』という新書を増補改訂して、単行本として再版したという変わった経緯。

第1章 ある大正人の一日
第2章 巨大都市東京の誕生
第3章 成金の輩出
第4章 大量消費型の社会
第5章 大正文化の成立
第6章 時代としての大正
第7章 時代区分としての大正
補論 文化環境としての郊外の成立
補論2 公衆衛生と「花苑都市」の形成

社会史的なディティールは、この時代のおもしろさを映し出して興味津々。あちこちの広い領域から話題を紹介していて飽きることがない。

ただ、この時代を特徴づける段になると、視野の広さはあだとなって、議論の軸の不在となっている。遊郭や遊女の問題の記述に相当力を入れていて、それが大事なのはよく分かるが、この時代やその文化全体の把握としてはバランスを失してはいないか。

著者は、文藝評論家・荒正人の論を引きながら、「大正デモクラシー期」ひいては「大正時代」という時代区分に異を唱え、「1910年代-1930年代」という時代区分を提案している(171)。だが、どこに視点を置くかによって時代区分というものは違いうるものだし、視点や意図をじゅうぶんに画定せずにざっくりと「1910年代-1930年代」とするのでは、「大正時代」という区分と大きく変わるものではない。

だいたい、この本のタイトルを「1910年代-1930年代文化」とせずに、「大正文化」のままにしてあることは、後者の時代区分の説明力を証するものではないか。これを無節操とまで言うのはちょっと厳しすぎるかもしれないが、既存のものを批判するのであれば反批判されてもしかたがないところ。

[J0127/210129]

中西聡編『経済社会の歴史』

名古屋大学出版会、2017年。副題は「生活からの経済史入門」、これは良い。こんな概説書がほしかったというような種類の本、読んでいておもしろいし、経済史とあるけども、社会史に関心のある人にもお勧めでは。

序 章 身近な生活から地域の環境を考えよう

第Ⅰ部 地域社会と生活
第1章 家族・地域社会と経済活動
第2章 災害と飢饉
テーマⅠ 社会史の方法

第Ⅱ部 自然環境と生活
第3章 森林資源と土地所有
第4章 エネルギーと経済成長
テーマⅡ 進歩と環境

第Ⅲ部 近代化と生活
第5章 人口で測る経済力
第6章 健康と医薬
第7章 娯楽と消費
テーマⅢ 共同体と近代

第Ⅳ部 社会環境と生活
第8章 教育と労働
第9章 法と福祉
第10章 帝国と植民地経済
テーマⅣ システムという発想

終 章 競争と共存から未来を思い描こう
入門ガイド 文献史料と統計資料

概説書なのだけど、個別事例を大事にしながら論を進めていて、リアルな状況がうかがえると共に、その辺をもっと調べてみたいという刺激を与えてくれる。『日本経済の歴史』、『世界経済の歴史』という本の続編らしいから、そちらも一度目を通してみたい。

[J0126/210122]