副題「水・森林・黄金を生んだ大地」、中公新書、2024年。地質学の観点からみた、日本列島の特徴を解説する。

序章 日本列島の見方
第1章 かたち―1万4000の島々の連なり
第2章 成り立ち
第3章 火山の列島―お国柄を決めるもう一つの水
第4章 大陸の東、大洋の西―湿った列島
第5章 塩の道―列島の調味料
第6章 森林・石炭・石油―列島の燃料
第7章 元祖「産業のコメ」―列島の鉄
第8章 黄金の日々―列島の「錬金術」
終章 暮らしの場としての日本列島

一般的な温泉の湯は、雨水に由来する貯留層の水がマグマだまりなどの熱によって地上に戻ったものである(火山性)。それに対して、有馬温泉の湯は、海底でプレートに取り込まれた水が放出された、世界でも珍しいタイプの湯であるという(プレート直結型)。

プレートに取り込まれた水は意外な、そして重要な役割を有している。地球深部にあるマントルをつくる岩石は通常、1500℃くらいにならないと溶けないが、そこに水があると500℃も低い1000℃ほどの条件で岩石が溶け、マグマがつくりだされるという。「気象庁によると、日本列島には111個の活火山が分布している。日本列島に活火山が多いのは、地下深部がほかの場所よりも温度が高いからではなく、そこに水が豊富に存在しているからである。日本列島だけではない。太平洋を取り囲む環太平洋火山帯を構成する火山は沈み込んだプレートから放出された水により作られたものだ」(70)。海水と岩石を混ぜて、なんだかオノゴロ島神話を思い出すではないか。

東シナ海から日本海へ、黒潮から分岐した対馬海流が流れ込む入り口となっている対馬海峡は現在の水深で130mと浅い。地球が寒冷期を迎えると、海水準が低下して、黒潮が日本海に流れ込むことができなくなる。約2万年前の最終氷期にはこうしたことが生じた。「結果、北風に率先して水蒸気を供給するものはなく、全球的には低温である氷期に、日本海側はむしろ雪が少ない、という少々不思議な具合になる」(97)。現在のように間氷期には、その逆の豪雪となるわけだ。

日本のことではないが、地中海では海水が入りこんでは蒸発を繰り返し、岩塩である蒸発岩が堆積し続けた。その影響として、「この時代、大洋の海水塩分濃度は3.5%から3.3%と低下した。そしてこの大事件は、これが起こった地質時代名が冠され、「メッシニアンの塩分危機」という地学マニアをくすぐる名称がつけられている」(115-116)。どのへんが「危機」なのか、また別の本などで勉強しなくては。

石炭の生成について。植物が陸上で繁茂しはじめたのは約5億年前。3億5000年前からは「大森林時代」がはじまるが、このとき植物の大型化を支えたのはリグニンという有機化合物について、これを分解できる生物は誕生していなかった。このため、とくにこの時代に地中に大量の有機物が埋没することになったという。リグニンを分解できる木材腐朽菌(きのこ)が誕生したのは、約3億年前だという。これもまた、断片的な説明なので、要勉強。

地質学からみれば、日本列島に襲う脅威としては、地震以上に火山であるらしい。宝永の富士山噴火(1707年)が有名だが、地質学的には大規模な噴火とは言えない。7300年前、硫黄島近海の鬼海カルデラの大噴火(鬼海アカホヤ噴火)のほか、2万9000年前に姶良カルデラを作った大噴火では、鹿児島・宮崎を含む九州南半分を火砕流が覆い尽くしている。この規模の大噴火は、9万年前の阿蘇の大噴火と、12万年間で3年しか起こっておらず、噴出量でそれよりも二桁小さい規模の火山さえ、鬼海アカホヤ噴火以降経験していないという「7000年間の僥倖」というべき時代なのだという。こうして考えてみると、鬼海アカホヤレベル(10の12乗トン)とは言わなくても、7×10の8乗=7億トンレベルであった宝永噴火の100~1000倍レベルの火山噴火は、いつ起こってもおかしくないといえそうである(本書が直接言っているわけではなく、僕が考えただけだが)。

[J0504/240826]