Month: March 2021

ブレイディみかこ『THIS IS JAPAN』

新潮文庫、2020年、原著は2016年。

第1章 列島の労働者たちよ、目覚めよ
第2章 経済にデモクラシーを
第3章 保育園から反緊縮運動をはじめよう
第4章 大空に浮かぶクラウド、地にしなるグラスルーツ
第5章 貧困の時代とバケツの蓋
エピローグ カトウさんの話

ブレイディさんの本は何冊目か。キャバクラや保育園、ホームレスといった問題を扱って、雰囲気だけでものを言うのではなく現地取材もしている、しっかりした日本社会のルポルタージュだったのに良い意味でびっくり。イギリス在住歴が長い著者、たんにいわゆる出羽守にならないのは、その経験がイギリスでも労働者階級のそれだから。

ひとつのポイントは、日本の左翼や社会運動が理念に走りすぎて、貧困を経済問題として捉えてきていないという認識。一億層中流が貧困その他の問題を「見えない」ようにしているだとか、日本社会の人権意識が義務前提の考え方でしかないとか、この辺は本当に「あるある」だ。

広い層に、学生にもぜひぜひとお勧めしたい一冊。最後のカトウさんの話だけもうひとつピンと来なかったが、まあそれはよし。

[J0145/210325]

工藤庸子『宗教 vs. 国家』

講談社現代新書、2007年。

第1章 ヴィクトル・ユゴーを読みながら
第2章 制度と信仰
第3章 「共和政」を体現した男
第4章 カトリック教会は共和国の敵か

フランスのライシテ原理の歴史を紹介。あとがきに、谷川稔『十字架と三色旗』くらいで、「歴史学の知見をふまえた平明なライシテの解説書はほとんど見当たらない」と執筆の動機が書かれているが、難しすぎず丸めすぎず、その目的がよく達成されていてありがたい一冊。最近では伊達聖伸さんなどがライシテに関する概説書を出版されて選択肢が増えてきているが、ユゴーの小説の読み解きにせよ、ジュール・フェリーとその背景の紹介にせよ、親切な本書の記述の価値はなお高い。

既存の概説書を参照しながら書かれているが、先行研究の扱い方にもフェアさを感じる。・・・・・・と、なんだか新鮮な感想を書いてきたが、半分以上読んでから以前に読んだ本であることに気づき、また自分自身に「いやいや・・・・・・」となるのだった。このブログ名「本の虫」は、食べたら消化排泄して残らないという意味でもある。

[J0144/210321]

高橋繁行『土葬の村』

講談社現代新書、2021年。

第一章 今も残る土葬の村
第二章 野焼き火葬の村の証言
第三章 風葬 聖なる放置屍体
第四章 土葬、野辺送りの怪談・奇譚

新書っぽくないテーマのルポルタージュ、実は現代にもまだ土葬や土葬をめぐる民俗があるという事実、そして民俗学者でもなさそうなのに、それを何十年も追う著者の情熱と、驚くポイントも多い本。残っていた土葬の風習もここ数年で急激に減ったというが、それでも簡単に「もういわゆる古い民俗など残ってない」などと諦めるべきでもないのだな。実際の葬列の写真などもいくつも所収。

場所は、奈良盆地の東側の山間部と、隣接する京都府の南山城村とのこと。廃仏毀釈で有名な、あの十津川村の神式埋葬の報告もある。三重県伊賀市島ヶ原の「お棺割り」すなわち四十九日に墓をあばく風習だったり、死亡した妊婦の胎児分離の風が死体損壊罪に問われた例だったり、なかなかえげつない記述もあり。

本書にも触れているが、東日本大震災で火葬が追いつかず、一度は土葬をしたもののの、故人に申し訳ないという感覚から再度土葬をしたというのは、よく知られているエピソードである。それが、土葬が当たり前の大安村では「焼かれるのはかなわん」と(56-57)、風葬が当たり前の与論島では「土に埋めるのは、犬や猫じゃあるまいし」という言葉を聞いたとか(198)、なるほど。

[J0143/210309]