副題「大西洋を旅する声と音」、岩波新書、2025年。
うーん、自分的にはあんまり。とても博学な人なんだろうとおもうけど、どこが新しいのか分からなかった。入門書だから別にいいんだろうか。

第一章 アフリカの口頭伝承
第二章 奴隷船の経験
第三章 アメリカスに渡ったアフリカの声と音
第四章 自由を希求する共同体の歌
第五章 合衆国のブラック・ミュージック
第六章 アメリカスからアフリカへ
第七章 文字のなかの声
第八章 奴隷貿易・奴隷制の記憶の光と影
第九章 ブラック・ミュージックの魂
第一〇章 ブラック・スタディーズとは何か
第一一章 ブラック・カルチャーは誰のものか
第一二章 未来に向けて再構築されるルーツ

すこし厳しく言いたくなるのは、逆に、脱植民地の話とか文化盗用の話とか、「政治的な正しさ」の話題を「ちゃんと」取りあげているところ。だが、だからといって、奴隷制の歴史とともに、ルイ・アームストロングやら、ニーナ・シモンやら、サン・ラやら、エリカ・バドゥやら、いかにもなスターの話題を軽く散りばめて、こんな本を書くこと自体は文化盗用にはならないのだろうか。けっきょく安全地帯に身をおいて気持ちよく物わかりのいい文章を書いているけど、入門書だって、もっとこの問題に強い主張を抱えた立場からつくるべきではないのか。そうでなければ、むしろ、ファンの立場に徹して、ブラック・ミュージックやブラック・アーツの魅力を解説するなかで歴史のことに触れた方が、まだしも筋が通っている気もする。なんて、自分にできないことを人に指摘するなとは言うけれど、我ながらやたら厳しいことを書いてみる。

以下、本書で参照されている、黒人奴隷や過去・現在の黒人による自伝的記録をいくつかメモ。
・『数奇なる奴隷の半生:フレデリック・ダグラス自伝』
・奴隷体験の聞き書きプロジェクトに基づく『日没から夜明けまで』、『奴隷文化の誕生』
・シドニー・ミンツ『アフリカン・アメリカン文化の誕生』
・1789年に出版された、オラウダ・イクイアーノの自伝
・1845年に出版された、フレデリック・ダグラスの自伝
・ゾラ・ニール・ハーストン『バラクーン』(未邦訳)
・ガーナに対するアフリカン・アメリカンとしての違和感、サイディヤ・ハートマン『母を失うこと』

[J0596/250731]