Month: October 2022

山口真一『ソーシャルメディア解体全書』

副題「フェイクニュース  ネット炎上 情報の偏り」、勁草書房、2022年。

第1章 社会の分断と情報の偏り
第2章 フェイクニュースと社会
第3章 日本におけるフェイクニュースの実態
第4章 ネット炎上・誹謗中傷のメカニズム
第5章 データから見るネット炎上
第6章 ソーシャルメディアの価値・影響
第7章 ソーシャルメディアの諸課題にどう対処するのか

なんとか解体全書とか書いてある本で、ほんとうに網羅的な本って見たことがないかもしれないが、この本はこの領域に関する話題を広く扱っていて、良い意味で教科書的な、便利な一冊になっている。

  • SNSでは極端な意見が多く投稿され、憲法改正の例では「非常に反対」「絶対に反対」の人たちは14%しかいないが、投稿回数は46%にのぼる。(25)
  • 〔フェイクニュースによる殺人の例、インドやメキシコ。いずれも、「人さらいギャングが入国した」「子どもを誘拐した犯人だ」というフェイクニュースに対して、防衛的な対応から殺人に及んでいる〕(41)
  • イギリスのケント大学の指摘、陰謀論が広まる理由。(1)知識への欲求、(2)安心したい欲求、(3)「人のもっていない情報を知っている」とぃう優越感への欲求(47)
  • FIJのニュースの信頼性レーティング(74)、正確:事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていてない、ほぼ正確:一部不正確だが、主要な部分に誤りはない、ミスリード:一見事実とは異ならないが、誤解の余地が大きい、不正確: 正確・不正確な情報が混じり、全体としては不正確、根拠不明:誤りと証明できないが、証拠や根拠が乏しい、誤り:重要な部分に事実の誤りがある、虚偽:重要な誤りを含むことを知りながら伝えた疑いが濃厚、判断留保:真偽の証明が困難、誤りの可能性が否定できない、検証対象外:意見や主観的な評価であり、真偽を証明できない(74)https://fij.info/introduction/guideline
  • 新聞の閲覧時間が長かったり、マスメディアの信頼度が高いとフェイクニュースを信じにくいという指摘(111)
  • スーパースプレッダーはごくごく一部
  • ファクトチェックの限界(277-279):(1)真実のニュースは普及しにくい、(2)なにが「真実か」は個人の判断がともなう、(3)中立性の確保が難しい、(4)事業の安定的な継続が難しい、(5)強く信じている人にファクトを提示しても反発する(逆効果)

[J0306/221019]

村上春樹『雨天炎天』

副題「ギリシャ・トルコ辺境気候」、新潮文庫、1991年、原著1990年。

ギリシャ編:アトス――神様のリアル・ワールド
 さよならリアル・ワールド
 アトスとはどのような世界であるのか
 ダフニからカリエへ
 カリエからスタヴロニキタ
 イヴィロン修道院
 フィロセウ修道院
 カラカル修道院
 ラヴラ修道院
 プロドロムのスキテまで
 カフソカリヴィア
 アギア・アンナ――さらばアトス
トルコ編:チャイと兵隊と羊:21日間トルコ一周
 兵隊ほか

ギリシャというけど、アトス縛り。アトスの紀行文ということで読んでみた。各修道院で出される食べ物の話ばかりだが、ひとつのリアリティとしておもしろく読める。

「ギリシャ正教という宗教にはどことなくセオリーを越えた東方的な凄味が感じられる場合があるような気がする。とくに夜中の礼拝を階段の隅からそっと覗き見ているような場合には。そこにはたしかに、僕らの理性では捌ききれない力学が存在しているように感じられる。ヨーロッパと小アジアが歴史の根本で折れ合ったような、根源的なダイナミズム。それは形而上学的な世界観というよりは、もっと神秘的な土俗的な肉体性を備えているように感じられる。もっとつっこんで言えば、キリストという謎に満ちた人間の小アジア的不気味さをもっともダイレクトに受け継いでいるのがギリシャ正教ではないかとさえ思う」(51)

村上による『古寺巡礼』風の記述? これ以上突っ込んだ考察をしてはないが、多くが感じるギリシャ正教の第一印象の記述と考えれば。

トルコ編になると、彼の地の文化・社会というよりは、村上節ばかりが印象に残る。それはそれですごいことだよね。

[J0305/221077]

鈴木エイト『自民党の統一教会汚染』

副題「追跡3000日」、小学館、2022年。

プロローグ 安倍元首相が殺害されるまで
第一部 安倍政権との癒着
・発覚した首相官邸と統一協会の”取引”
・利用者される2世信者たち
・教団イベントに国会議員が大挙参加
・疑惑の国会議員を直撃
・全国弁連の申し入れにも聞く耳もたぬ自民党
・50周年大会の勝共連合、教団関連組織の工作
・顕在化する総裁・韓鶴子の反日思想
・2019参院選で暗躍する教団
・第4次安倍再改造内閣は”統一教会系内閣”
・自民党最大派閥会長が教団サミットで公演
・教団と政治家のマッチング集会
・「桜を見る会」に統一教会関係者
・2世信者が韓国で謝罪ツアー
・国会議員同伴の北朝鮮訪問が頓挫
第二部 菅・岸田政権への継承(2020-2022)
・菅政権へ引き継がれる”負のレガシー”
・統一教会と米歴代大統領との蜜月
・ついに安倍晋三がリモート登場
・岸田政権でも”継承”された教団との関係
・2022年参院選、安倍晋三暗殺
エピローグ 我々は何に目を向けるべきなのか

カンパのつもりで購入。いちおう、宗教社会学者を名のっている身だが、世間一般と同じく、ここまでの癒着という認識はなかったな。新宗教の教勢は衰えているという一般的な認識以上の問題意識はなかった。「ターニングポイントは2000年代後半」だそうで、安倍晋三の個人的な繋がりが大きかったよう。

右翼的であることを売りにしていた安倍政権が、韓国中心で反日的な統一教会と手を組んでいたこと。実際、本書によれば、統一教会は、安倍政権に歴史問題への謝罪を求めるような運動も行っていたという。たしかに統一教会側は、日本の政権に食い込み、影響を及ぼすことを狙っていただろう。他方、おそらく、安倍や自民党はと言えば、統一教会の思想に共鳴したというよりも、ひたすら選挙に役だつ「便利な存在」として関わってきたのだろう。もうひとつのキーワードは、「反共」か。よりによってというか、彼らの嫌いな「反日」であろうと関係ないわけで、なにか思想面で影響を受けて癒着したといった話もかえって、その底の抜けた無節操ぶりが恐ろしく、また彼らならば、今の日本ならば、さもあらんという気もする。

もちろん、そうした無節操を支持してきたのも、今の日本である。今回の事件の結果、「宗教」に対する嫌悪がさらに、より広く「信念」的なものに対するいっそうの嫌悪へと繫がりそうなのは、皮肉である。今の日本国民の大勢は、宗教も嫌いなら、共産党も社会運動的なものもポリコレ的なものも嫌いで、一切の原理的行動を厭うているように思う。なんなら、山上の行動のほうが理解されやすい心性があるのだよな。

[J0304/221014]