Month: June 2022

野尻抱影『星の民俗学』

講談社学術文庫、1978年。1952年に刊行された『星と伝説』が定本で、今は中公文庫で入手できる模様。

序文(新村出)
はしがき
北極星を語る
浪速の名船頭
北斗七星
寿命星
三つ星覚書
下田の三ドル星
天狼を射る
ナイルの星シリウス
聖エルモの火
南極老人星を見る
房州の布良星
獅子座の「大鎌」
織女三星
アイヌの星と伝説
蝎座の赤星
星の追いかけ伝説
バビロニヤの蝎人
南斗と北斗
「偽りの東明」
銀河物語
「女王の椅子」
スバル星東西
見上げ皺・頭巾落し
星と天気占い
ヒヤデス星団
白昼の星
宇治拾遺の星
蒙古の星
ポリネシヤの星
星の音楽
解説(広瀬秀雄)

日本には星にまつわる民俗や伝承が少ないと言われる中で、野尻抱影が遺した仕事の意味は大きい。この書は、日本のことのみならず、世界における星の伝承も扱って、それがまた味わい深い。

そもそも星は、動きもするし、地図のように平面にプロットするのが難しい。星の民俗が拾いにくい・記録されがたい理由はそうした性質にもあるだろう。一方で、星ほどどの社会・どの時代にも普遍的なものはないわけで、人間の認識にとって非常に独特な位置を占めるものなのだなと、カントの言葉なども思い出しなから考える。

[J0276/220626]

戸谷洋志『ハンス・ヨナスの哲学』

角川文庫、2022年。『ハンス・ヨナスを読む』2018年を改稿・加筆したものとのこと。

第一章 ヨナスの人生
第二章 テクノロジーについて―技術論
第三章 生命について―哲学的生命論
第四章 人間について―哲学的人間学
第五章 責任について
第六章 未来への責任の基礎付け
第七章 神について―神学
おわりに
補 論 『存在と時間』とヨナス
読書案内

ハンス・ヨナスを読んだことがないので、ヨナス理解としてどれくらい適切なのかが分からないのだが・・・・・・。そこがちゃんとしているのなら、これはすごい良書では。分かりやすくて、ヨナスの哲学に興味が湧く記述。トピックも幅広く、きっとここがヨナス哲学の分かりにくいポイントなんだろうというところも、むりにあれこれ解説しすぎずに、それとして知ることができる。戸谷さんという方、才気走った華麗な文体というタイプではないけど、すごい書き手なんじゃないのかな。

[J0275/220625]

阿部真大『地方にこもる若者たち』

副題「都会と田舎の間に出現した新しい社会」、朝日新書、2013年。

現在篇 地方にこもる若者たち
 若者と余暇―「ほどほどパラダイス」としてのショッピングモール
 若者と人間関係―希薄化する地域の人間関係
 若者と仕事―単身プア/世帯ミドルの若者たち
歴史篇 Jポップを通して見る若者の変容
 地元が若者に愛されるまで
未来篇 地元を開く新しい公共性
 「ポスト地元の時代」のアーティスト
 新しい公共性のゆくえ

9年前のこの本を、なぜかこのタイミングで読む。前半は岡山市での若者調査、後半はJポップの歌詞分析。

「商店街とは、若者にとって、地域社会における人間関係を学ぶ場所であるとともに、「よく分からない人」に出会わないと生活必需品を手に入れることができない「ノイズ」だからの場所でもあった」(52)

「もともとヒップホップとは黒人音楽で、仲間との絆や地域性を重視してきた音楽であった。だから、00年代、日本の若者文化のなかで「地元」のもつ意味が大きくなるに従って、ヒップホップの人気が高まっていったことは必然であった」(136)

「もはや若者たちに、そこから外れなくては生きていけないほどに強力に画一的な生き方を押しつけてくる「完成された社会」はない。しかしそこでは、「好きに生きていい」と言いつつ、「自己責任」の名のもと若者たちをほったらかしにしている現実がある」(170)

「みんなで議論するより有能な指導者に任せたほうが社会は良くなるか?」という質問に対する回答より、「20代の女性は「みんなで議論をすること」に対して極めて肯定的な姿勢を示しているのに対し、20代の男性は真逆の姿勢を示しているのである。現在の若者は、男性は極めて権威主義的であり、女性は極めて反権威主義的な傾向があると考えられる」(176)

「集団の成員の多様性の高まりにより、「空気を読む」ことは次第に困難になりつつある。だから、若者たちは「空気を読む」ことに必死になる。……今の若者は、多様性の高まった、「決まった空気」がない状態を生きている。まずは、このことを理解しなくてはならない」(181)

[J0274/220625]