副題「愛国と神話の日本近現代史」、講談社現代新書、2023年。

最近、SNSで「愛国ファンタジー」という表現をみかけて、なるほどなあと思ったが、本書はそうした愛国ファンタジーの出自をたどる一冊といえる。筆者はおそらく、そうしたファンタジーを全否定するつもりはない、と言い加えるだろうけども。話としてはそういうことなんだけど、うんちくがみっちり。

第1章 古代日本を取り戻す:明治維新と神武天皇リバイバル
第2章 特別な国であるべし:憲法と道徳は天照大神より
第3章 三韓征伐を再現せよ:神裔たちの日清・日露戦争
第4章 天皇は万国の大君である:天地開闢から世界征服へ
第5章 米英を撃ちてし止まむ:八紘一宇と大東亜戦争
第6章 教養としての戦前:新しい国民的物語のために

「大日本帝国を「神話に基礎づけられ、神話に活力を与えられた神話国家」と定義したうえで、戦前を五つの神話にもとづく物語に批判的に整理した。その物語とは、「原点回帰という罠」「特別な国という罠」「祖先より代々という罠」「世界最古という罠」「ネタがベタになるという罠」の五つである」(276-277)。

「国体にせよ、三種の神器にせよ、近代国家を急造するための方便ではなかったか。明治の指導者たちは神話を一種のネタとわきまえたうえで、迅速な近代化・国民化を達成するために、あえてそれを国家の基礎に据えて、国民的動員の装置として機能させようとした。その試みはみごとに成功して、日本は幾多の戦争に勝ち抜き、列強に伍するにいたった。しかるに昭和に入り、世界恐慌やマルクス主義に向き合うなかで、神話というネタはいつの間にかベタになり、天皇や指導者たちの言動まで拘束することになってしまった」(269)。

[J0601/250822]