『宮本常一著作集 第6巻』は、『家郷の訓』と『愛情は子供と共に』を収める。1967年、未来社刊。以下、「あとがき」からメモ。
『家郷の訓』は、三国書房の経営者花本英夫が、柳田國男に民俗学関係の図書の出版について相談したところ、宮本を紹介されたのがきっかけだったという。「ちょうどその頃私はデュルケムの「教育と社会学」をよんでひどく感心していたので、その書物を下敷にして、もっと具体的なものをかいて見たいと思っていた。そこで先生[柳田]にはそのことを言わないで花本さんに話すと、それでいいだろうというので、いそいでかいたのが「家郷の訓」であった」(288)。
「花本さんは広島県三原へ疎開しておられた。是非寄るようにとのことで三原のお宅をたずねたことがあるのだが、私はすっかりそのことを忘れていた。・・・・・・花本さんはそれから間もなく病気になって三原でなくなられた。そのことはどこかできいたのだが住所もおぼえておらず、おくやみも出さなかったように思う。それから二〇年がすぎて、最近私はまた時折三原をおとずれるようになった。そこに鮓本刀良意さんという実に熱心な民俗学者がいて、三原を中心にいろいろの調査をしており、おなじ町の能地という漁村の調査には特に力をそそいでいる。・・・・・・その情熱にひかされて私もまた三原をおとずれるようになったわけである。この町にはまたみどり屋という書店があって、そこの主人平田さんが私の著書を愛読して下さることから、町にはまた何人かの愛読者がおり、そういう人たちがあつまって歓談することになったが、その家が花本さんの家であり、二〇年あまりでお元気な未亡人にあうことができたし、戦後花本さんに逢ったのがこの家であったことも来て見て思い出せたのである。そして二〇年という年月がどんなに記憶を消してゆくものであるかもしみじみ考えさせられたのであった」(289-290)。
[J0605/250930]
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