Month: October 2025

堤邦彦『日本幽霊画紀行』

副題「死者図像の物語と民俗」、三弥井書店、2020年。
収めている幽霊画に逸品が多い上に、文献のみならず現地調査に裏付けられた論考の内容も水準が高く、出版物としてすばらしい。150点ものカラー図版を収めているのだけど、個人的に、文章ページと図版ページが同じ紙質で、つるつるでない紙を使ったこういう本が好き。

第1章 寺と幽霊画
 高僧絵伝から幽霊画へ―死者救済の思想と図像化
 子抱き幽霊図の原風景―産死供養の図像
 円山応挙伝説考―幽霊画をめぐる「物語」の成立
第2章 血族の証明
 幽霊画の秘密―金沢・鶴林寺
 失われた絵の帰還―会津市松沢寺
 奥州四十九院家の記憶
第3章 寺蔵幽霊画を巡る旅
 みちのく幽霊画紀行―呪具としての死者図像
 幽霊画のまち―弘前市禅林街
 御用絵師の女霊救済
 薄幸の女霊図―丹後夕日ヶ浦
 「産女の幽霊」を祀る―長崎光源寺
第4章 幽霊画と江戸怪談
 江戸はなぜ女霊の時代となったのか―後妻打ち怪談をてがかりとして

幽霊画にも地方性があるらしく、とくに北東北は幽霊画の宝庫だという。津軽などでは富裕層に幽霊画を魔除けとして置く風習があったという。ねぷた絵と幽霊画の関係性の話もおもしろい。
弘前市のギャラリー森山では八月に幽霊画を集めた「ゆうれい展」をやっているらしく、ぜひ一度行ってみたい。https://www.instagram.com/gallery_moriyama/

収められている幽霊画も迫力のあるものが多いが、長崎市光源寺にある産女の幽霊の木像というのも凄いインパクト。

巻末には、全国の寺院所蔵幽霊画一覧がついている。

[J0609/251018]

播磨学研究所編『聖徳太子と播磨』

神戸新聞総合出版センター、2023年。

1 聖徳太子の人物像と太子信仰――東野治之
2 播磨地域の聖徳太子像につい――石川知彦
3 播磨の聖徳太子絵伝――村松加奈子
4 播磨の太子信仰 斑鳩寺と鶴林寺――(鼎談)大谷康文・吉田実盛・小栗栖健治
5 法隆寺領鵤荘の聖徳太子信仰 ―― 田村三千夫
6 鶴林寺と聖徳太子信仰――宮本佳典
7 聖徳太子信仰の展開と特色――吉田一彦
8 播磨の聖徳太子伝説――小栗栖健治
9 聖徳太子のこころ――古谷正覚
10 「鶴林寺太子堂荘厳画」の芸術性の回復――高木かおり

播磨と聖徳太子というテーマの連続講演をもとにした本のようで、体裁はよくある地域のカルチャーセンターの講座的なものだが、最新の学術研究を踏まえた充実の内容にびっくり。勉強になるしおもしろい。聖徳太子ゆかりの寺、斑鳩寺は訪れたけど、鶴林寺にも行きたいなあと思う。

なおこの本は、たつの市龍野町の重要伝統建築物郡保存地区のならびにある、伏見屋商店にて購入。すばらしい建物の本屋さんで、和風なようでいて、吹き抜けの二階立てになっているところはイギリスの書店を思わせるつくり。

[J0608/251007]

林竹二『田中正造の生涯』

講談社現代新書、1976年。

序章 田中正造の遺跡を訪ねて
第1章 政治家田中正造の形成過程
第2章 田中正造の議会の戦い
第3章 谷中村問題
第4章 田中正造の谷中の戦い
第5章 砕けたる天地の間に

戦いに身をなげうっていても、「谷中のことがまるで見えていなかった」田中正造が、しだいに谷中村の人たちの勇気に気づくというビルディングスロマンな筋書き。かなり著者の思い入れの強い評伝ということになるんだろう。

田中正造はキリスト者ではなかったようだが、キリスト教に共感をもっていたようだ。また、「田中正造は、決定的に「日本精神」を否定した。やまとだましいは専制国家の手でつくりあげられた偽道徳で、来るべき政治にとっては「大疵物で一文の値うちもない」」(220)と考えていたらしい。

[J0607/251007]