副題「川漁師の語り」、中国新聞社、1996年。

第一章 少年時代
第二章 川漁師への道
第三章 江の川のアユ
第四章 天野式漁法
第五章 鮎の三昧
第六章 ツガニ漁
第七章 川漁師の叫ぶ
第八章 おわりに
資料編

今では、江の川・最後の川漁師とも言われているらしい著者。川漁の手法や歴史、江の川の豊かさやその危機等々と、読み所は多い。また著者は、一度自衛隊や会社勤めをしたあと、Uターンをして川漁をはじめた方とのことで、そんな背景もあってか、探究心と創意工夫に富んだ人のよう。そうした人だから分かる、自然を相手にした仕事の魅力が伝わってくる。

要約を許さない種類の本だけれども、著者が感じてきたダムの影響についてだけ、すこしメモ。まず、ダムの利害を巡って、上流と下流など、地区同士の反目が生まれた。漁獲量自体が落ちているところで、「ダムのせいで」という見方が、その反目を強める。水量の減少がアユの産卵に影響。また、土手沿いに整備された道路のせいで、夜の川面が明るくなり、これもアユの産卵を妨げる。自然の増水は川底の掃除という意味を持つが、ダムのせいでだらだらと濁り水が流れる。自然の濾過器であるはずの砂や小石も、ダムが堰き止めてしまう。しかも、ダムは底水から川に流すが、底水は水温が低く酸素も少ない「死に水」。このほか、川の生命力を削る要素は、生活用水や山の掘削をはじめ、枚挙に暇がない。

著者がこうした川の影響をよく感じているのは、川や魚をよく見つめ、それとやりとりを続けてきたからであり、また、「川はぜったいよみがえる」というポジティブな確信を持っているからにちがいない。しかしこの本が出てから20数年、今の著者が見る江の川はどんなものだろうか。

[J0267/220505]