増補版、ちくま文庫、2019年、もとは1997年。

文庫版序章 カルト国家の愛国・道徳オリンピック狂騒曲
第1章 ソニーと「超能力」
第2章 「永久機関」に群がる人々
第3章 京セラ「稲盛和夫」という呪術師
第4章 「万能」微生物EMと世界救世教
第5章 オカルトビジネスのドン「船井幸雄」
第6章 ヤマギシ会―日本企業のユートピア
第7章 米国政府が売り込むアムウェイ商法
文庫版最終章 「カルト資本主義」から「カルト帝国主義」へ

日本企業や経営者におけるオカルトやスピリチュアルなものとの結びつきを暴いていく。「カルト資本主義」という表現にはいまいちピンとこないし、内容的もかなり雑多であるけども。統一教会との結びつきまでは書いてはいないが、文庫本最終章が安部晋三への言及で締めているところは示唆的。

どこまで本当か、確かめが必要な気もするが、稲盛和夫はヒトラーを評価していたとか。谷口雅春にも影響されていたと。

斎藤氏が挙げる、カルト資本主義の特徴。
(1)オカルト的な神秘主義
(2)西洋近代文明の否定、エコロジーの主張
(3)個人の軽視、全体の調和の重視
(4)情緒的・感覚的
(5)バブル崩壊後に急速に台頭
(6)企業経営者や官僚、保守系政治家らが中心的な役割
(7)無我の境地のような個人の生活信条を普遍的な真理とする
(8)現世での経済的成功を重んじる
(9)優生学的な思想傾向
(10)学歴などに対する権威主義
(11)民族主義的

つまり、現実の社会システムに異を唱えるようにみせかけながら、どこまでも市場原理のメカニズムに乗じてその問題を拡大強化するものだと(418)。なるほど。

さらに続けて、2019年現在の話として。「消えたものもあれば、相変わらずのものもある。より隆盛を極めているものもなくはないが、さほどの勢いを感じないのは、本書の主人公とも言うべき船井幸雄がすでに世を去り、稲盛和夫が第一線を退いたためばかりではない。すなわち、企業社会の労働現場はもはや、オカルトの味付けを必要としなくなった。この間に徹底された新自由主義イデオロギーに基づく経済・社会政策と、これに伴う弱者を蔑視し、差別する意識や言動の蔓延、さらにはそれこそが正義と見なされる時代が到来してしまった以上、従順さは組織内で生き延びる絶対条件だ。本来の「忠誠心」とは異なるが、使役する側にとっての不都合が大きくなければ、それで構わないのである」(418-419)。

これらをバブル崩壊以後に特異な現象と捉える見方にジャーナリスト的な誇張はあるにせよ、まちがいなくひとつの「現実」ではある。もう少し広い近代・現代日本史のなかに、これらの思潮をどう位置づけるべきかという問題意識を湧き立たせる内容。

[J0283/220807]