出雲というと、どうしても「古代」が注目されがちである。たとえば、島根県立博物館というものはなくって、かわりに「古代出雲博物館」となっている。一方、近世は近世で、松江城が国宝になったりたたら製鉄が映画になったりと、それなりの認識が存在する。ところが、尼子氏が滅ぼされてしまったこともあり、中世についてはスポットが当たりにくい。

そんな中、出雲の中世のようすを広い視野から描いた一冊が、佐伯徳哉『出雲の中世』(吉川弘文館、2017年)。出雲の独特の事情が、中央政府の揺れ動きと関連しながら動いてきたことがよく分かって興味深い。

関連書としては、『県史32 島根県の歴史』(山川出版社、2005年)の中世部分の記述は、こうした概説シリーズものの域を超えた充実ぶり。特に、井上寛司氏による「杵築大社と鰐淵寺」は、諸国一宮制の一事例として示唆に富む。

松江市に関しては、力の入ったシリーズ『松江市史』の第三巻(2012年)と第四巻(2013年)に中世編が収められ、最新の研究成果が盛り込まれている。

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