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『新体系日本史15 宗教社会史』

高埜利彦・安田次郎編、山川出版社、2012年。この『新体系日本史』はなかなか野心的な構成で、「宗教社会史」という括りも珍しいし、「ジェンダー史」や「土地所有史」みたいな巻もある。・・・・・・が、どうやら既刊になっているのは13冊までで、当初の出版計画は頓挫している様子。

第Ⅰ部
1章 日本宗教の形成と社会(曾根正人)
 1 古代日本宗教史の問題点
 2 日本宗教の黎明
 3 古代国家祭祀の創出
 4 信仰の展開
 5 古代仏教と古代宗教の成立

第Ⅰ部1~6章は「時代概説」となっている。1章は古代。

2章 中世宗教の成立と社会(平雅行)
 1 古代宗教の中世化
 2 顕密仏教と中世国家
 3 鎌倉仏教の展開
 4 中世宗教と社会

2章については、別途記事を書きます。こちら。→ http://moroosocio.e2.valueserver.jp/wordpress/archives/2883

3章 中世宗教の展開と社会(安田次郎)
 1 室町時代の顕密寺社
 2 禅律の活動
 3 戦国期の権力と宗教
 4 地域の社会と寺社
 5 民衆の熱狂

「禅律僧は葬儀にも従事する存在であった。葬儀と寺や僧をセットでとらえることに慣れた現代では、葬送にタッチしない僧というもののほうがイメージしにくいが、中世の顕密僧は死の穢れを避けて、遺体と接触することはもちろん、一回忌までの法要に参加することも可能なかぎりしなかったのである。それに対して、禅律僧は死穢の観念に拘束されない存在であった」(67)。

戦国武将の信仰の二層、「一つは、一人の生身の人間としての武将たちがもっていた信仰、二つは、領国・領域の支配者、多くの家臣の主人としての信仰である」(68)。

4章 近世社会と宗教(髙埜利彦)
 1 織豊政権期の宗教
 2 江戸幕府と宗教制度
 3 幕藩社会と宗教

5章 琉球の宗教(赤嶺政信)
 1 琉球の宗教と女性
 2 王府の宗教政策
 3 外来の宗教
 4 おわりに

現在にまで生きる生霊信仰の事例など。

6章 アイヌの宗教(佐々木利和)
 1 イオマンテ、そしてクマ
 2 アイヌの宗教儀礼
 3 アイヌの世界観

1章 古代・中世の寺院修造と社会:興福寺を中心に(安田次郎)
 1 興福寺の創建
 2 永承の再建
 3 土打役の登場
 4 料国としての大和

第Ⅱ部「宗教と社会」は各論。

2章 近世の寺社造営:公儀普請と勧化(杣田善雄)
 1 近世寺社造営の諸形態
 2 公儀普請 - 北野天満宮
 3 勧化の展開 - 東大寺大仏殿
 4 寺社造営と権力・社会

3章 中世の寺社金融(中島圭一)
 1 仏神物の特質
 2 祠堂銭とその利用実態
 3 祠堂銭に対する社会的認識

4章 寺社・御三家名目金と近世社会(三浦俊明)
 1 寺社名目金の特徴
 2 門跡寺院の名目金
 3 御三家名目金
 4 名目金の貸付規制と返弁反対運動

5章 古代・中世の社会事業と仏教(勝浦令子)
 1 古代社会事業の成立
 2 古代社会事業の発展
 3 古代の社会事業の構造と変質
 4 中世社会事業への転換

「悲田院は東西二所の悲田が左右京の九条にそれぞれ施薬院別所としておかれており、預(僧)・乳母・養母・雑使などが、とくに孤児や窮乏の人びとの収養にあたっていた。・・・・・・842(承和9)年には、京職とともに嶋田・鴨河原などで、5500余頭の髑髏を集めて焼いており〔『続日本後紀』〕、そして845(同12)年に、鴨河悲田の預僧賢儀に養育された孤児清継ら18人は、新生連と賜姓され左京九条三坊に編戸されている。この時期の悲田院の孤児は良民の扱いであったが、孤児らの名に、おそらくキヨメ=清目と関連する「清」の通字がみえはじめている。しだいに、悲田院の孤児らは、死穢にかかわる活動を行うようになっていった」(284-285)。

6章 女性と宗教:西大寺叡尊と女性の事例を中心に(細川涼一)
 1 叡尊と女性
 2 母と養母(醍醐寺の巫女)
 3 尼と尼寺(法華寺)
 4 檀越の女性 - 公家社会・寺社権門の女性
 5 檀越の女性 - 武家社会の女性

7章 中世の葬送と墓制(高田陽介)
 1 貴族社会の葬送
 2 葬送の社会的規制
 3 中世的葬送の展開
 4 二十一世紀の福音  

最新の先行研究を渉猟して、このテーマの導入・概観にとても良い論文。

8章 近世の葬祭と寺院:社会集団論の視点から(澤博勝)
 1 福井城下周辺の三昧をめぐる諸集団
 2 近世民衆と檀那寺と葬祭儀礼 - 村落部の検討

9章 中世の宗教的アジール(神田千里)
 1 宗教的アジールとは
 2 中世寺院のアジール
 3 僧侶の救解活動
 4 アジールと「世俗化」 

アジールとしての寺院の力は、ある程度、近世にも生きていたという話。「戦国時代は脱呪術化の進行した時代だった。アジールにもその影響がおよんだことは想像にかたくない。ただしこのことによりただちにアジールが衰退したわけではなく、僧侶による救解活動は相変わらず盛んであり、降参の意思表示として剃髪も普通にみられた。このような世俗化が、アジールの根をたつほどに庶民の世界に浸透していくのはもっともっとのちの時代を想定する必要があるではないかと思われる」(388)。

10章 普化宗廃止と近世アジールの一特質(保坂裕興)
 1 問題の所在
 2 幕府寺社奉行による普化宗流幣改革
 3 幕末・維新期における普化宗 - 廃止への過程
 4 まとめにかえて - 近世アジールの一特質

11章 都市という場の宗教性(榎原雅治)
 1 連雀商人と修験
 2 都市空間の計画性
 3 平等の場としての都市空間

修験、香具師、富山の売薬商人との深い関係。遍歴する商人の宿泊施設「旦過」。

12章 地域社会と宗教者(西田かほる)
 1 笠之者をめぐる諸関係
 2 筰をめぐる諸関係  

[J0518/241003]

杉崎泰一郎『欧州百鬼夜行抄』

副題「「幻想」と「理性」のはざまの中世ヨーロッパ」、原書房、2002年。怪物妖怪好きな好事家による本も悪くはないが、本書については、歴史学者としての著者の視点がやはり光る。キリスト教と「異教」的なものとの絡み合いを描いて、やはりひとつは歴史的変遷を踏まえていること。西洋における重要な先行研究に言及していること(この方はP.ギアリの訳者でもある)。それから、「この時代、これに関する資料は乏しい」と、資料の不在にも考慮をしていること。

第1章 怪人たち
第2章 怪獣たち
第3章 ドラゴンと蛇
第4章 幽霊たち

個人的に関心のある第四章、中世ヨーロッパの幽霊史から。
キリスト教布教の時代。3世紀のテルトゥリアヌス『魂について』、神の奇蹟による「ファンタスマ(幻影)」としての幽霊。5世紀のアウグスティヌス『死者のための供養について』、供養の提言。6世紀のグレゴリウス一世『対話』、やはりミサの奉納を認める。5世紀から7世紀は、そもそも、幽霊の出現に関するテキストがきわめて少ない。それでも著者はいくつかの例を示している。

その後の中世全体の流れを総括した部分から、「アウグスティヌスをはじめラテン教父たちが提唱したようなキリスト教的な幽霊観、すなわち死者本人が現世に戻ってくることはなく、それは悪魔か天使が起す幻影であるという考えは結局ヨーロッパでは定着せず、幽霊の彷徨が教会でも公認されることになり、肉体を伴って出現することすら多くなりました」(226-227)。

カロリング期から紀元1000年頃、死者祈祷が教会において重要視されるように、修道士たちも幽霊の物語を盛んに語るようになる。

11~12世紀には、死者の追善供養を行うことで、クリュニー修道院が一世を風靡。代表的な大著、尊者ピエール(ベトルス ・ ウェネラビリス)『奇跡について』。

13世紀、ゴシックの時代。たんに不思議を恐れるのではなく、そのメカニズムを考える。ティルベリのゲルヴァシウス『皇帝の閑暇』。ジャック・ル・ゴフが「偉大なる煉獄の普及者」と評した、ハイステルバハのカエサリウスによる例話集『奇跡に関する対話』。さらに、中世末期には幽霊の土俗化が生じたという。

[J0517/241002]

大沢真知子『21世紀の女性と仕事』

左右社、2018年。放送大学叢書というシリーズの一冊で、もともと2006年に出版された放送大学の教科書を改訂したもの。

1 アメリカと日本の「静かな革命」
2 労働経済理論とその見落とし
3 ジェンダー革命と出生率の回復
4 なぜ女性は仕事を辞めるのか
5 男女格差のメカニズム
6 転職しづらい日本の労働市場
7 教育と女性の就業
8 企業の法対応の功罪
9 非正規労働と女性の貧困
10 男性へと拡がる格差
11 意識の壁に挑む
12 ダイバーシティ&インクルージョン

「ジェンダー革命」論の文脈。「これらの研究成果から出生率の低下は、男性は稼ぎ主であり、女性はケアの主な担い手という社会から、男性も女性も仕事と家事を分担する男女平等社会への移行期に起きた現象と解釈される」(50)。

「従来、女性が活躍できない原因は女性側にあると考えられてきた。たとえば女性は勤続年数が短く、結婚や出産で仕事を辞める人が多い、というように。しかしここまでみた通り、男女間の昇進や賃金における格差は複合的な要因によって生じている。仕事の割り振りの男女差、昇進のスピードの差、長時間労働、短時間勤務制度がもたらす能力開発への負の影響などである。女性の側に要因があるわけではないのだ」(93)。

男女雇用機会均等法の効果。「女性社員の育成のためには、職場での男女差別をなくし(均等政策)、同時に仕事と育児が両立できる環境を整えるという両方の政策を行うことが重要なのだが、90年代後半になると、企業の女性支援策は両立支援にシフトし、均等の視点が弱くなっていくのである」(128-129)。

配偶者控除の103万円の壁、社会保険料の130万円の壁。「2010年に実施された労働政策研修・研究機構の「短時間労働者実態調査」によると、非課税限度額である年収103万円を超えそうになった場合に、就労調整を考慮すると回答している人は25%にのぼる。4人に1人が就労調整をして労働時間を調整している。そうであれば、人手不足になっても雇い主は賃金を上げるインセンティブをもたない。挙げると就労調整をする人が増えるだけだからだ。そのためにこの制度によって、パート全体の賃金は9%程度押し下げられている推計されている」(155)。

「エッセイスト酒井順子は著書『男尊女子』(2017)の中で、日本は女性がリーダーシップを取りたがらないだけでなく、女性が自ら一歩引いて生きることを選択している「男尊女子」社会だと説いている」(182)。

[J0516/240928]