Month: April 2024

平岡聡『禅と念仏』

なるほど、禅と念仏の比較という視角を通して、ユニークで退屈させない日本仏教の入門書。日本仏教の多様性に見通しをつけてもらえるような気がする。著者自身の、仏教者としての実践的観点と、仏教史の歴史的知識と、ほどよいバランス。角川新書、2024年。

第1章 本家vs.分家―禅と念仏の源
第2章 保守vs.革新―歴史的な変遷
第3章 出家vs.在家―実践の難易度
第4章 悟りvs.救い―宗教的ゴール
第5章 内向vs.外向―対峙する対象
第6章 引算vs.足算―文化への影響
第7章 個人vs.集団―政治への影響
第8章 坐禅vs.念仏―心理学的考察

改めて指摘されて、そういえばなあと、考えさせられる箇所は多い。

たとえば、悟りをめざす禅仏教には肯定的な人間観が、救いを求める念仏仏教には否定的な人間観が確認されるという指摘。あるいは、鎌倉時代に禅が政権と結ぶことができたのは、幕府の本拠地が旧来の仏教の支配する京都にではなく、新開地たる鎌倉にあったからという指摘。

あとは、法然の信仰の革新性、歴史的重要性。

[J0459/240418]

岡真理『ガザとは何か』

副題「パレスチナを知るための緊急講義」、大和書房、2023年。読んでいて苦しくなる内容の、告発の本だが、読まねばならない本。

■第1部 ガザとは何か
4つの要点/イスラエルによるジェノサイド/繰り返されるガザへの攻撃/イスラエルの情報戦/ガザとは何か/イスラエルはどう建国されたか/シオニズムの誕生/シオニズムは人気がなかった/なぜパレスチナだったのか/パレスチナの分割案/パレスチナを襲った民族浄化「ナクバ」/イスラエル国内での動き/ガザはどれほど人口過密か/ハマースの誕生/オスロ合意からの7年間/民主的選挙で勝利したハマース/抵抗権の行使としての攻撃/「封鎖」とはどういうことか/ガザで起きていること/生きながらの死/帰還の大行進/ガザで増加する自殺/「国際法を適用してくれるだけでいい」

■第2部 ガザ、人間の恥としての
今、目の前で起きている/何度も繰り返されてきた/忘却の集積の果てに/不均衡な攻撃/平和的デモへの攻撃/恥知らずの忘却/巨大な実験場/ガザの動物園/世界は何もしない/言葉とヒューマニティ/「憎しみの連鎖」で語ってはいけない/西岸で起きていること/10月7日の攻撃が意味するもの/明らかになってきた事実/問うべきは「イスラエルとは何か」/シオニズムとパレスチナ分割案/イスラエルのアパルトヘイト/人道問題ではなく、政治的問題

■質疑応答
ガザに対して、今私たちができることは?/無関心な人にはどう働きかければいい?/パレスチナ問題をどう学んでいけばいい?/アメリカはなぜイスラエルを支援し続けるのか?/BDS運動とは何?

■付録
もっと知るためのガイド
パレスチナ問題 関連年表

「「ハマースとは何か」、ではなく、むしろ問うべきは、「イスラエルとは何か」だと思います。イスラエルとは何か、どのように建国されたのか、それがこの問題の根っこにある原因です」(168)。問題は「イスラエル」であって、ユダヤ人とも一緒ではない。ユダヤ人の中にも、イスラエルへの批判の声があるからである。

著者は、パレスチナのことを学ぶにつれ、日本における植民地主義やレイシズムの問題に出会うことになったといい、そういった問題の広がりも本当だろうが、個人的には、SNSやネットといったメディアをめぐる問題――これだけ情報が溢れているにもかかわらず、あるいはそれだけに意図的・非意図的に問題の本質を攪乱させるニュースや情報が蔓延している状態――が、このガザ問題に向きあうことを難しくしている条件として気にかかっている。
[J0458/240415]