副題「ウェーバーからルーマンへ」、岩波新書、2023年。

序章 現代社会学の生成と展開
第1章 「資本主義の精神」再訪:始まりの物語から
第2章 社会の比較分析:因果の緯糸と経糸
第3章 組織と意味のシステム:二一世紀の社会科学へ
終章 百年の環

力強いしかたで、新しいウェーバー解釈を提示する一冊。ポイントは、次のような点。

「近代資本主義を成立させた具体的な原因として、ウェーバーは一つではなく、少なくとも二つ考えていた。一つはいうまでもなく①プロテスタンティズムの禁欲倫理であり、もう一つは②会社の名の下で共同責任制をとり、会社固有の財産をもつ法人会社の制度である。少なくともその両方がなかれば、西洋でも近代資本主義は成立しなかった」(161)

1889年『中世における商事会社の歴史について』にはじまる、ウェーバーにおける組織論の重要性を強調しているほか、数理や計量の面でも先駆であることを主張。

さて、「資本主義の精神」について。

「日本語圏の解説の多くは、「資本主義の精神」をなんとなくかなり昔の、近代初期のことだと考えてきた。少なくとも、私自身はそう思い込んでいたが、実際には論文が発表される50年前ぐらいの出来事を、ウェーバーは描いているのである」(58)

「プロテスタンティズムの世俗内禁欲は、「神」会社の「仮社員」として死ぬまで働くことに等しい。他に社員はおらず、実際には全てを自分一人で決めて実行しなければならないから、ただの「仮社員」ではなく、「最高経営責任者(CEO)」かつ「正社員候補生」だ」(108)。

「近代資本主義の決定的な特徴を「自由な労働の合理的組織」に見出すというとらえ方は、だから30年にわたる彼の研究生活全体の結論でもある。20代の商法の研究も、30代後半の病気から回復してきて、40代に入るときに着手したプロテスタンティズムの禁欲倫理の研究も、そして50代の半ば過ぎで亡くなる前の比較分析も、一つの線でつながる。ウェーバーの研究は全体としてつながっているのだ」(140)

「儒教と道教」第4章について、「だからあえてウェーバーの「結論」を求めるとすれば、ここが一番ふさわしいだろう。つまり、ある程度の規模の経済社会において近代資本主義の成立/不成立の直接の原因になるのは、合理的な行政や司法の有無であり、それを社会的に支える重要な条件として、それと同型のしくみをもつ宗教倫理などがある。ウェーバーはそう考えていた」(160) 

同時に、「儒教と道教」の読みにくさについても説明(171-173)。元々の論文「儒教」に16世紀以降のデータを加えて大きく書き換えたのが「儒教と道教」であると。「ところが、分量がほぼ2倍になるほどの大改訂だったにもかかわらず、元の「儒教」に書き加える形にしたため、「儒教と道教」はひどく読みにくいものになった。論理展開が一貫せず、データの精度も大幅に上下する。近世中国史の知識がないと、そもそも何を書いているのか、わからない部分も少なくない」(173)。

さて、組織論について。

「上意下達(トップダウン)は組織を一回改革するには向いているが、日常の業務のなかで外部の環境の変化を素早くとらえ、対応を変えていくのには向いていない。・・・・・・上意下達は実際には、素早い決定が苦手なのである」(215);「よく誤解されるが、だからといって水平的な協働がつねに良く、階統型の業務処理がつねに悪いわけではない」(221)。

ウェーバーの合理的組織論・官僚制論の限界に対し「このしくみを意思決定の連鎖として、新たにモデル化したのは〔H・A・〕サイモンである。それをさらにルーマンは、コミュニケーションのシステムとしてとらえ直した。特に、この連鎖での決定がつねに時間的なものであることに注目して、その意味を深く考察した。基本的にはそれがそのまま「組織の自己産出系」と呼ばれるものになる」(218)。

このように、ルーマン社会学の原型である「組織の自己産出(自己準拠)」を、合理的組織論の展開として捉える。他方。

「因果分析の方法論に関しては、むしろルーマンの方が混乱しており、それが彼のわかりにくさを創り出した面も否定できない。例えばルーマンは「因果から機能へ」の転換を主張したが、余計な文飾や哲学談義を取り払えば、その内実は「原因と結果はつねに一対一で対応するわけではない」である」(265)。

本書における著者の主張は一貫しており、首肯できる部分も少なくない。一方で、ウェーバーの議論を大幅に組織論の方に寄せた著者の解釈のもとでは、なぜウェーバーが、古代ユダヤ教にはじまり、『宗教社会学論集』に収められることになった宗教史的研究にあれほどの力を注いだのかがよく分からなくなっている。

[J0498/240815]

【メモ】
1889年『中世における商事会社の歴史について』について、丸山尚士氏による翻訳。