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橘木俊詔『資本主義の宿命』

副題「経済学は格差とどう向き合ってきたか」、講談社現代新書、2024年。格差論で著名な筆者、各種のデータも紹介しつつ、学説史が7割くらい。「100分でわかる格差の経済学史」的な、便利な概説書として読むことができる。

第1章 格差の現実
第2章 資本主義社会へ
第3章 資本主義の矛盾に向き合う経済学
第4章 福祉国家と格差社会
第5章 ピケティの登場
第6章 ピケティ以降の格差論
第7章 経済成長か、公平性か
第8章 日本は格差を是正できるのか

学説史の概観のあと、後半ではピケティの理論を大きく取りあげている。ピケティ入門としても手軽な一冊。

[J0581/250430]

江森百花・川崎莉音『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』

光文社新書、2024年。難関大学に挑戦しにくい環境に置かれている地方女子。彼女たちを「呪縛」から解放しようと、その環境に関する調査研究を実施。そのこころざしはすばらしいが、内容には大いに不満だ。ここに書かれているのは、どこまでも地方大都市圏の子の話。より厳しい環境にあるはずの、小都市や中山間地に生まれた本当の地方女子は、ここでも、またしても、置いていかれる。

第1章 課題の背景
第2章 なぜ地方女子は難関大学を志望しないのか
第3章 原因の探究(1)資格重視傾向
第4章 原因の探究(2)低い自己評価
第5章 原因の探究(3)安全志向
第6章 保護者からの期待のジェンダーギャップ
第7章 「女子は地元」に縛られて
第8章 解決への道のり

資格志向の話や、医学部志向の話、ロールモデルの話など、本書にはたしかに重要な指摘も含まれている(ところでここで扱っているデータは、医学部看護学科も入っているのだろうか。気にはなる)。しかしだ。

「地方」といいつつ、本書では地方大都市と地方小都市や中山間地のちがいがまったく意識されておらず、地方大都市が前提となっていて、地方小都市や中山間地の状況がまったく理解されていない。札幌と帯広と遠軽を一緒にして「地方」と括ってしまっていいのだろうか。神戸と鳥取とでも、どれだけ別世界であることか。

もうすこし具体的に。本書のメインとなっている調査の対象は偏差値67以上の高校らしいが、本当の地方では、自宅から通える範囲にそういう高校すら存在しない。

浪人回避の原因をおもに本人や保護者の意識の問題として語っているが、本当の地方には予備校はなく、あったとしても難関校に特化した予備校なんてどこにもないのだ。県外の地方大都市に出て、一人暮らしや寮住まいをしないと、まともな受験対策が受けられない。だから、「浪人のコストを気にする傾向」なるものは(第一義には)心理的・社会関係的なものではない。地方女子(および地方男子)にとって、お金の問題をはじめ、浪人のコストは「実際に」何倍も大きいのだ。そんな本当の地方では当たり前の事情さえも配慮せずに、社会心理の問題として挑戦を煽ってはまずいでしょう。

著者たちは静岡と兵庫のご出身とのことで、東大に進学してみて首都圏出身の学生とのあいだに大きな意識のギャップを感じたそうである。北海道や東北、山陰や四国といった地域の小都市や中山間地の若者は、同じくらいのギャップ、もしかしたらもっと大きなギャップと疎外感を、地方都市出身の学生とのあいだに感じていることはまちがいない。大きな本屋もなければ予備校もない、そもそも近隣に大学もない、そんな場所はいくらでもある。「地方女子」という看板をかかげてそのエンパワーメントをめざすなら、ぜひ著者たちには、地方大都市圏と小都市・町村部の現実のちがいも視野に入れた調査研究を進めてもらいたい。

[J0580/250422]

栗田隆子『ぼそぼそ声のフェミニズム』

作品社、2019年。うーん、Not For Meではあったかな。ほんとうに「ぼそぼそ声」だけの人ではなくて、運動にもかかわっている人のようだが、その運動の内容はちょっと本書ではよく見えなかった。典型的なフェミニズムからはこぼれ落ちてしまうもの、という部分は分かるのだが。一番印象に残ったのは、「単純労働でどうして食べていけないのかが私にとっては一大テーマだ」(109)というところ。

はじめに ぼそぼそ声のフェミニズム
第1部 〈私〉から出発し、女性の貧困を見据えること
1 ないものとされてきた女性たち
2 教える/教わる「女性の問題」
3 シューカツを巡る〈大人〉の欲望のまなざし
4 取り散らかった「私の部屋」から出発する
第2部 女性を分かつもの
5 労働の「他女」/アカデミックなフェミニズムの「他女」として叫ぶこと
6 “偽装”婚活迷走レポート
7 「愚かさ」「弱さ」の尊重
第3部 新しい「運動」へ
8 「自立」に風穴を開けるために
9 「気持ち悪い」男・「気持ち悪い」出来事
10 真空地帯としての社会運動
11 「私も」(MeToo)を支えるもの

[J0579/250422]