岩波現代文庫、2020年、原著2016年。

第1章 貧乏に徹し、わがままに生きろ
第2章 夜逃げの哲学
第3章 ひとのセックスを笑うな
第4章 ひとつになっても、ひとつになれないよ
第5章 無政府は事実だ

伊藤野枝の伝記、いやいやたしかにすごいインパクトだ。野枝がとにかく凄いわけだが、著者が頻繁に野枝を出し抜くというか、前に出て語り出す。そうでもしないと、野枝の凄さが伝わらないからでもある。

ど根性、と著者も繰り返しているが、野枝の肝の据わり方が凄い。こういう人が現れるんだな。その根幹には「いざとなったら、なんとでもなる」という感覚があって、たしかにその感覚が奪われているところに資本制的な奴隷的状況が発生する。また、セックスや家庭の問題が、非アナーキーな国家体制の根幹にあることを、この書の野枝は理屈としてだけではなく教えてくれる。後年、「個人的なことは政治的なこと」というスローガンにまとめられることを、もっと生々しい迫力をこめて伝えてくれるのだ。

どうだろう、若い頃にこの書を読んだら、もっと大きな衝撃を受けただろうか。でも、野枝の奔放すぎる生き方に通っている筋道までは理解できなかったかもしれない。結婚における同化を否定しているように、情愛を美化するだけのロマン主義の話なのではないのだ。

[J0206/211006]