中公新書、2021年。

第1章 歴史の発見
第2章 古社寺の保存
第3章 修理と復元―社寺
第4章 保存と再現―城郭
第5章 保存と活用―民家・近代建築
第6章 点から面へ―古都・町並み・都市
終章 日常の存在へ

この本は、日本の歴史的建造物をいろいろ紹介する本、ではなく、建造物の「保存」という思想の時代的変遷を辿った本。要領よくまとまっていて、勉強になる。

印象に残った話題として、たとえば、1931年に大阪城が、大阪のランドマークとして鉄筋コンクリートで200年ぶりに「再建」ないし「創出」されたが、1997年には昭和の近代建築として登録有形文化財になった事例など。名古屋城なども鉄筋コンクリート造りが揶揄されることがあるけれども、それはそれでひとつの思想の現れである。逆に古い状態をよく残している建築物でも、維持・改修が続けられている以上、「近代的」な性格を免れているわけではないということ。

今和次郎のバラック建築評価、大山顕さんらのドボク鑑賞、庵野秀明さん的な電信柱や電線風景愛まで、建築や街並をめぐる視線や嗜好は本当にいろいろ。僕自身も、消えゆく街並や建物に対する愛惜の念や、そうした変化に対する抵抗感は強い方だが、移り変わることにさえ価値や美を感じることはできるのだからね。

そういや本書には、「こんなところにも」という感じで、大学院生時代の辻善之助の名前が。古社寺保存法が1897年に制定されて最初期に行われた新薬師堂本堂と唐招提寺金堂の修理に際して、関野貞は西洋式の技術を用いるなど、創作的な復元を実施して議論になったという。その際、関野を擁護、あるいは代弁する論考を発表したのが辻だというエピソード。

[J0217/211201]