宮本常一記念館編、「宮本常一ふるさと選書 第1集」、みずのわ出版、2021年。

「ふるさと大島」
「奇兵隊士の話」
「世間師」
「梶田富五郎翁」

「ふるさと大島」は、宮本常一が子供時代の回想も交えながら描く、周防大島のこと。残りの三編は、周防大島出身の古老に尋ねた話の記録。100ページに満たないパンフレット風のアンソロジー、読みやすく、図版も多くて良い。

周防大島を訪ねたばかり、しかもたまたま「ふるさと大島」で話の出てくる白木山の山腹をうろついたこともあって、感慨深し。米山俊直の「小盆地宇宙」ではないけれど、島を中心にひとつの宇宙が形作られている。それも、大洋にポツンとある離島とはちがって、行き来のしやすい内海にある瀬戸内の島のような場合、海はどこかに続いている道のようなものである。

https://goo.gl/maps/KSHH3sRCzvyW8m2N9

実際、周防大島は山口県であるが、地理的・歴史的に四国との繋がりも強い。本書に収められている「梶田富五郎翁」は、周防大島の久賀から対馬の浅藻に移り住んだ人たちの物語だし、この地域はハワイ移民を数多く出していて、大島の西屋代にはハワイ移民資料館もある。そういう行動範囲の広さがある。本書「編者あとがき」では、当地の移民について「技術を身につけておれば働きさえすれば食えるという事実の発見であり、働く場所は生まれ在所とは限らず、働く場所を求めて歩けばよいということになる」という、宮本のことばが紹介されている。

たしかに全国津々浦々を歩いた宮本ではあるが、周防大島を訪ねてみて、彼の原点はやはりこの「小宇宙」の周辺にあることを感じた。かの有名な『忘れられた日本人』「土佐源氏」の高知も、出稼ぎ先として周防大島と関係の深い土地。テープレコーダーを使わずに取材をしていた時代に、語り手自身の口調を生かした文章を書いたことで先駆者である宮本だが、「土佐源氏」や「梶田富五郎翁」など、その手法を使ったのは、彼自身がよくなじみを持っていた地域に限っていたのではないだろうか。もしそうだとすれば、周防大島と高知の歴史的関係なくしては「土佐源氏」は存在しなかったわけだ。

[J0398/230909]