新潮文庫、2001年。底本は1998年刊。井上ひさし本人によるあとがきの他、今村忠純の解説付き。

戯曲のシナリオで、数々の舞台上演のほか、2004年には、黒木和雄監督、宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信キャストで映画化されている。

広島の原爆で亡くなった父親の幽霊が現れて、生き延びた娘を勇気づけ支えるお話。東日本大震災でも多くの人が感じることになった、生存者の罪責感(サバイバーズ・ギルト)をよく描いている。東日本大震災は自然現象であるのに対し、原爆投下はアメリカの仕業だが、GHQの話がちらりと出るくらいでアメリカを直接責めるようなくだりはなく、主人公の美津江はひたすら自分を責める。

ただ、作品全体としてはあまり感心しなかった。父の幽霊が、あまりに救いになりすぎている。幽霊としてさえ出てきてもらえないことこそ、苦しいのではないか。解説の今村忠純はこの作品を「最新の夢幻能」と評価しているが、幽霊として現れる父・竹造は、やさしく娘を勇気づけるばかりで、いっさい自分の主張をすることなく、能の幽霊のように苦しみを訴えることもない。もしこの作品に、被爆者に対する癒し以上の、反原爆のメッセージが込められているとすれば、結果として嫌みなやり方に走っているとも言えなくもない。

[J0407/230928]