まずこの本のこと。このパンプクエイクスなる仙台市の出版元自体、小野和子さんのこの本を出版するためのユニットのよう。たしかに細部にまで手のかかった本で、編集者たちの著者への思い入れが伝わってくる。これで3000円以下の値段というのも、けっこうすごい。PUMPQUAKES、2019年。

第1部
オシンコウ二皿ください
石のようになった人
わたしの「友だち」
かのさんのカロ
はるさんのクロカゲ
ひと山越えても鹿おらん
エゾと呼ばれた人たち
みはるさんの『冬の夜ばなし』

第2部
寂寞ということ
「捨てる」ということ
母なるもの、子なるもの
「現代の民話」について
一粒の豆を握る・一粒の豆を見失う
「ふしぎ」の根をさがす
山の民について:猿鉄砲のむかし
浜で出会った人たち
ゆめのゆめのサーカス
小野和子年譜

著者の小野和子さんは、1934年生まれで、宮城県を中心に民話収集(小野さん自身は「採訪」というとのこと)を続けてこられた方。昔話を聞くというと、ほっこりとした癒しのイメージがあるが、この人が民話を聞きに臨む姿勢はひりひりとした緊張感に満ちている。ひとつには、民話の裏に込められた生の姿を聞き逃すまいとして、もうひとつには、彼女が語りを乞うている眼前の人の、「お前は何者か」という問いかけに対峙して。研究者然とも「理解者」然ともせずに民話に臨むこの人には、「いまここから生まれる話」に対して予断がないのだ。
[J0466/240509]