ちくま新書、2019年刊。 前著『出雲を原郷とする人たち』(藤原書店、2016年)も日本中をめぐって出雲信仰の跡をたどった労作だったが、出雲ご出身でもあるらしく、当代一の出雲マニアというべき著者。

I 出雲国造の世界
II 卓越した指導力をもつ生き神
III 政治の世界へ
IV 尊福が遺したもの

千家尊福は「たかとみ」と読む。カバー袖から説明書きを引くと、「千家尊福(1845~1918)は明治のはじめ、出雲大社の祭祀をつかさどる国造(宮司)につくと、近世までの出雲信仰をもとに近代的な大社教を創立。日本全国に出向き出雲信仰を説き、神道界を二分した祭神論争では出雲派のリーダーとして活躍した。「生き神様」として絶大な人気を誇った尊福は後に政治家ともなり、埼玉・静岡・東京の府県知事、司法大臣や東京鉄道社長なども務め政財界で指導力を発揮した」。「年の初めのためしとて♪」で有名な「お正月」の作詞者でもある。

そもそも、出雲国造(こくそう)の何たるかからはじめねばならないが、それは出雲大社の祭祀者であり、その祖は天照大神に仕えた神話の神、アメノホヒとされている。出雲国造には千家家と北島家のふたつの系列が併存してきたが、数年前に高円宮家の典子さんと千家国麿さんの結婚が話題になった、あのお家である。

第80代出雲国造の千家尊福は傑物としてたしかに気になる人物だったが、これまでまとまった伝記がなく、2019年になってこの書と村上邦治『千家尊福伝』(私は未読)の二冊が現れたところである。いわゆる偉人伝の枠組み内での語りだが、前著でも発揮された情報量の多さはさすが。出雲大社にスピリチュアルを期待するような向きは、硬派なこの本に目を回すかもしれないね。

[J0023/200406]