ちくま新書、2008年。

第1章 「安全」だけでは足りない!
第2章 信頼の心理学
第3章 信頼のマネジメント
第4章 価値観と信頼感
第5章 感情というシステム
終章 「使える」リスク心理学へ

―― 食にせよ、住にせよ、分業化が進み、専門家の仕事を消費者として利用する分業社会における安全という問題(p. 44-)

――信頼の非対称性原理:信頼を得るより失うための事実の量や時間は短い(pp. 70-74)。理由(1)マスメディアなど社会の中で顕在化しやすい、(2)否定的なことがらの方が、信頼評価へのインパクトが強い、(3)否定的な事実の方が一般化されやすく、論拠に使われやすい、(4)信頼の欠如はさらに信頼を低下させる情報処理の枠組みを形成する(確証バイアス)。以上、P. Slovic, “Perceived risk, trust, and democracy” (1993).

――一方、事前の信頼がある程度高ければ、信頼を維持・向上させる情報処理がなされる(p. 76)。

――「リスク管理という仕事は、減点主義で評価されやすいという性質を持っている。このような、高い評判を得ることが基本的に難しい仕事において、何があっても不遜な態度を変えず、秘密主義で、リスクにさらされている人への思いもみえない、としたらさすがのブラックジャックをしても信頼を得ることはたやすくないだろう。そういったことを考えると、リスク管理者は人びとの安全のために誠実な姿勢でリスク管理に取り組んでおり、そのことによって安全が確保されていることを、事故のない平時においてこそ積極的に示すべきだと思う」(p. 97-98)

――「関心が高い人は、主要価値を共有している認識できればその相手を信頼するし、価値が異なると認識すると信頼できない。一方、関心の低い人は価値の類似性評価と信頼とのかかわりは薄くなる・・・・・・」(p. 124)。ただし、留保付きの傾向性として。

――人は、ボツリヌス菌中毒や竜巻、洪水などといった、それによって死ぬという人がきわめて少ない項目に対しては、実際よりも過剰に高い死亡者数を推定してしまう(p. 141)。

――さまざまな種類の犯罪の発生頻度(回数)を推測してみるという簡単な実験(p. 142)。

――感情ヒューリスティックが優勢になる場面。時間を制約され、急いで判断をしなければならないような場合、分析的、理性的にものを考えることは難しい(p. 155)。また、リスクの大きさが確率ではなく、頻度で表現されている場合。抽象的な確率表現よりも具体的な頻度表現の方が感情を喚起させる(p. 156)。

類書と比すと、人をいかに納得させるか、というリスク管理に関わる実践的な側面を意識しているところに特徴と価値がある。現代社会分析というわけではない。

[J0031/200501]