ジェームス・M・バーダマン『アメリカ黒人の歴史』森本豊富訳、NHKブックス、2011年、同著者『黒人差別とアメリカ公民権運動』水谷八也訳、集英社新書、2007年。『アメリカ黒人の歴史』は、奴隷貿易のはじまりから説き起こす通史。『黒人差別と・・・・・』は、そのなかでも1950年代に着火して、1960年代に大きく燃え広がった公民権運動にスポットを当てる。堅実な情報の積み重ねのもと、ウェットにもホットにもなりすぎない筆致で歴史を描いているだけに、逆に黒人差別の凄まじさをまざまざと感じさせる。とんでもない仕打ちや理不尽がたかだか50年前にはまだあって、つまりいくらでも生存者を見つけられる時代の話だとは。アメリカという国は、考えるほどに分からない国だ。虐げられてきたアメリカ黒人たちが、その戦いの中で、現代世界でもっとも素晴らしい音楽を作り上げてきた逆説についてもいつも考えさせられる。

ディティールにおいても発見が多い。
『アメリカ黒人の歴史』から。アフリカ人とヨーロッパ人の交流は、15世紀にははじまっており、奴隷貿易より前に大西洋クレオールの文化を形成しており、キリスト教もすでに取り込んでいた(17-18)。また、後の奴隷売買は、たんにヨーロッパ人によるだけではなく、ヨーロッパ人と手を組んだアフリカ人の奴隷商人が、ほかのアフリカ人を大量に奴隷化していったという構図で進んだ(20-21)。また、北米に渡ったアフリカ人がすべて奴隷だったわけではなく、主に都市に居住していた自由黒人が、南北戦争時には黒人人口の一割程度いたという(51-52)。アフリカ人奴隷がキリスト教に傾倒するきっかけのひとつとなったのは、1800年にはじまった「第二の大覚醒」である(57-58)。自分たちの経験に寄せて聖書を解釈する中で、ある意味モーセは、ファラオから奴隷を解放した人物として、イエスよりも重要な存在であった(58)。

南北戦争や抵抗運動の話は、引用しているときりがないかな。第二次大戦時の軍隊生活が、教育の機会や技術の習得を通して、黒人の意識に影響を与えたというところは興味深い(185)。多くのアメリカ人が、1977年のドラマ『ルーツ』ではじめて奴隷の問題を知ったとな(231)。そこから「奴隷ナラティブ」が再発見・再評価される気運が生まれたとか。

『黒人差別とアメリカ公民権運動』は、さらに良い本。ジム・クロウ法の概要であったり、KKKの実態などについてもよく分かる。先にアメリカはふしぎな国と書いたが、憲法への強い信頼と黒人差別が共存しているのもふしぎだし、黒人側も賛美歌と同じ憲法を根拠に戦ったりするのもふしぎ。もうひとつ、最初は小さな抵抗運動やデモが、大きな動きへと繋がっていくところも印象深い。もちろん、無力に終わった無数のデモがあったわけだろうけども、それも含めて学ぶことがある。

[J0040/200515]