山と渓谷社、2018年。岩手県を主な舞台に、明治時代に絶滅したニホンオオカミの跡をたどる。著者は1933年生まれで、教師をやりながら生物や自然史の研究、のちに作家生活に入った人とのこと。アカデミックな世界に属していてはできない、魅力と迫力に満ちた探究の書。

まず、「狼酒」なる酒の話に度胆を抜かれる。狼の肉の入った薬酒(といってもアルコールは入っていないらしい)とのこと、しかも長年民家に秘せられていた現物にまでたどり着いて、賞味までさせてもらっているのだから凄い。

明治時代、オオカミに賞金がかけられた頃の捕獲記録を探し出し、その子孫を徹底的に訪ね歩く。突然の絶滅は、欧米から羊などの家畜を導入したときに、その天敵として賞金や毒薬によるオオカミ退治が押し進められたこと、それから猟犬の輸入にともなった伝染病の拡散したことによると推測されるらしい。明治30年代前半に、奈良や三重では、オオカミの群れに伝染病が蔓延したことが語り伝えられているとのこと(平岩米吉『狼』)エゾオオカミも、毛皮を狙ったシカの乱獲の結果、牧場を襲うようになったオオカミを硝酸ストリキニーネによって毒殺したことから、明治20年頃にはほとんど姿を消したらしい。岩手県令が高値で買い取ったオオカミは、払い下げていろんな用途に用いたらしいが、その肉や「タン」を出していた店が盛岡などにあったらしい。また、当時はカセキ(カセギ)というイヌとオオカミの混血とおぼしき動物がいたとのこと。

以上は一部の情報をメモとして抜き出したものにとどまるが もう一度、これは迫力に満ちた探究の書だ。

[J0042/200516]