1974年、鹿島研究所出版会。黒い表紙のSD選書、それでこの「和」なタイトル、つい気になって手に取って眺めたが、期待に違わぬ楽しい内容。江戸の建築の話をするのに、相対死のエピソードからはじまる時点でもうおもしろいではないか。

I 江戸幕府の棟梁たち
II 本途と本途帳
 1 東照宮・鯛・障壁画
 2 江戸城再建と本途
 3 本途帳を訊ねて
III 本途の世界
 1 江戸城建物のランク付け
 2 京都御所の障壁画
IV 積算技術進展と本途の評価

本途帳とは、江戸時代の建築見積もり資料にあたり、当時の職人組織や物価、設計などの実態が分かる。もちろん、こうした本途帳が作られてきた背景そのものも重要な主題である。

読み方の多い本だが、とくに興味を持ったのは、障壁画の具体的な値段の付け方やランクづけ。狩野派は、建築組織に組み込まれていったがゆえに、芸術としての精彩を欠いていってしまったのだという。たしかに、家格や位、それから類型化された意匠ごとに細かく設定された報酬システムを眺めていると、さもあらんと納得させられる。それから、江戸時代のことではないけど、中世の仏師から競争見積がはじまったといった話なども。

[J0085/200908]