岩波現代文庫、2020年、原著は2011年。

序 章 一つの時代の終わり
第一章 敗戦と占領
第二章 講和条約の発効
第三章 高度成長と戦争体験の風化
第四章 高揚の中の対立と分化(1970年代‐1980年代)
第五章 終焉の時代へ
終章 経験を引き受けるということ

著者には『日本人の戦争観』(1995年)という著書もあるが、本書は戦争観一般ではなく、戦争体験の語りの歴史を辿る。つまり、たんにあれこれの戦争体験を紹介するのではなく、時代ごと・目的ごとに異なる戦争体験の語りのあり方を、できるだけ広い文脈に置いて整理しようとする。戦争体験の問題を考える上で、最初に手に取るべき一冊と言える。

そうした内容面での価値とは別に、可能なかぎりの「客観性」を堅持しつつ、リアルな情報を手を尽くして集めて整理していく様子に、著者の執念をひしひしと感じる研究でもある。

1954年生まれの著者は、「あとがき」でこう漏らしている。「思春期、青年期の私は、なぜあれほど無慈悲に、父親の世代の戦争体験に無関心、無関係を決め込んでいられたのだろうか」(347)。

もちろん著者自身は、そこから来る「負い目」を背負い、もっとも良心的に責任を果たしてきた人物のひとりにちがいない。また、私が属する団塊ジュニア世代ないし氷河期世代の人間が、日本の戦争問題にきちんと向き合ってきたとは、1ミリも思えない。それでも、ポスト団塊世代として著者が自省を込めて述べている、ポスト団塊世代や団塊世代の人たちに今も見られる戦争体験に対する「無慈悲」「無関心」は、改めて奇異に見える。彼らには、「”戦争”はまだ、手をのばせば、とどく所に”転がっていた”」のに。「戦争を知らない子どもたち」などという言葉は、その流行当時は意味があったろうと思うが、それから50年を経てまだ平気で「知らない」と言うのであれば、醜悪でしかない。この世代から、吉田さんのこの著書のような仕事がまだこれからどれだけ出てくるだろうか。私たちの世代は世代で――もう「若く」はないのだし――、自分たちの立場の上で、吉田さんたちの仕事を嗣がねばならない。

[J0089/200918]