トレルチの理論を要領よくまとめた本はないものかと思うのだが、これがなかなか難しい。神学、社会学、歴史学などと分析視点も多いし、なんせ著作や論文が多い。トレルチ自体を十分に読み込んだ上でのことではないので、研究書を評価する軸もできていないのだけど、メモ代わりに。ちょっと探してみた一番の結論としては、日本語版のトレルチ著作集全10巻の存在は本当ありがたいということだったりする。

熊野義孝『トレルチ』(日本基督教団出版局、1973年)

第一章 系譜
第二章 宗教
第三章 歴史
第四章 倫理

入門書らしいといえば、これが一番入門書らしいかな。でも、ほんとに簡単に目を通しただけなので再読すると違って見えるかもしれないけど、「これだ」という感じは持てなかったなあ。トレルチは本質的に神学者だったのだろうからそれが正しいのだろうけど、最終的には神学の文脈が前提されているような。


小笠原真『二〇世紀の宗教社会学』(世界思想社、1986年)
第三章 エルンスト・トレルチの宗教社会学

宗教社会学の立場から40頁くらいの記述、意外とないのがこういう種類の説明。正直、著者の解釈や整理がどこまで妥当なのか、自分にはまだ判断できないのだが、思想形成を段階別に解説してあって手がかりとしては助かる。

竹本秀彦『エルンスト・トレルチと歴史的世界』(行路社、1989年)

第一章 神学の歴史化
第二章 啓蒙主義と歴史主義
第三章 歴史における絶対性と相対性
第四章 歴史的理性と歴史的理性批判
第五章 トレルチの宗教社会学とドイツ社会史
第六章 歴史理論と政治思想
第七章 トレルチと現代

論文集であってトレルチ思想の紹介ではないが、意識されている思想史的文脈には拡がりがある。自分には、トレルチの思想を「神学の歴史化」と特徴づけることの是非までは判断できないが、思想史的な関心からトレルチを読む場合にあれこれ参考になる部分があるのではないか。

佐藤真一『トレルチとその時代』(創文社、1997年)

第1部 トレルチの神学的課題
第2部 ヴィルヘルム二世時代の社会・学校・教会とトレルチ
第3部 トレルチと第一次世界大戦―トラウプとの対比
第4部 ヴァイマル共和国期のトレルチ―革命と反革命

当時の歴史的背景に照らしてトレルチの知的な歩みを辿ったたいへんな労作、たいへんな労作であることは分かるのだが、これを読めばトレルチ思想が分かるかと言われれば、それはちょっと難しい。本格的にトレルチ研究をする人が目を通すべき研究書。序章で、国内外のトレルチ研究のレビューをしているので、これもまた有益。

近藤勝彦『トレルチ研究』上・下(教文館、1996年)

第一部 トレルチにおける歴史形成の神学
第二部 トレルチの「信仰論」とその周辺
第三部 トレルチにおける「文化総合」とデモクラシーの問題
第四部 トレルチとウェーバー

学位論文にプラス、複数の論文からなっているのかな。大部だが、ある程度各章が独立しているし、また文章としても読みやすく書かれている。トレルチ思想を歴史形成の神学と特徴づける見方の是非までは自分に判断できないが、扱っている主題の幅や密度からしても、トレルチ研究の基礎になるような本に思える。

トレルチ思想の「入門書」として「コレ」というのは、ちょっと見あたらず。冒頭にも触れたが、やはり神学、歴史学、哲学といったジャンルを独特のしかたでまたがっているところに扱いの難しさがありそうだ。

[J0097/201004]