Month: April 2021

松本博文『ルポ電王戦』

NHK出版新書、2014年。

第1章 開発者たちの描いた夢
第2章 プロ棋士挑戦への道―電王戦前夜
第3章 老棋士の奇策―第一回電王戦
第4章 プロ棋士が敗れた日―第二回電王戦
第5章 リターンマッチ―第三回電王戦(1)
第6章 決着―第三回電王戦(2)

こちらは藤井聡太現2冠の活躍でまた将棋を観るようになったクチだが、将棋におけるAIと人間との関係はおもしろい。このルポは、人間には敵わなかったところから、いよいよトップ棋士をも凌駕する2014年の第三回電脳戦までの状況を描く。棋士たちの才能や個性はそれなりに広く知られているところだが、将棋ソフトの開発に心血を注いできた天才たち、山本一成や保木邦仁らの情熱も魅力的。なるほど、保木がBonanzaを開発して、そのソースコードの公開に踏み切ったことが重要だったのか。全体の発展のために隠しだてしない感じは、羽生さんと一緒かもしれない。この本の記述は、たんにAI側だったり棋士側だったりにだけ肩入れしていないところもいい感じ。

棋士とAIとの関係では、糸谷哲郎現八段のインタビュー記事がおもしろくて、今は「努力型のほうがソフトを使った勉強に適正がある」とのことで、ひらめき型は受難だと。つまり、努力部分はコンピューターに委ねて、省力化をはかれるようになる、というようなイメージとも違うという。AIの発展が進むと、さらに状況が変わることもあるんだろうか。競争原理が働く以上、やっぱり努力の部分は省けないのだろうか。おもしろいな。

ライブドアニュース/王将リーグ『才能と努力』糸谷哲郎八段インタビュー(2019年9月)https://news.livedoor.com/article/detail/17107444/

[J0147/210416]

北村曉夫『ナポリのマラドーナ』

山川出版社、2005年。

1.イタリア対アルゼンチン
2.言説としての南イタリア
3.イタリアの北と南
4.アルゼンチンのイタリア移民
5.再び、イタリア対アルゼンチン

おもしろい。1990年イタリアで開催されたサッカーW杯のイタリア対アルゼンチンの対決、つまりシチリア出身のスキラッチと、セリエAナポリに所属していたマラドーナの激突でもあった試合を話の端緒にして、イタリア史における南北問題――アルゼンチンへの移民史も含めて――を辿る。

イタリアの「南部問題」は、国家としての統一のあり方がほかの国とは異なるイタリア特殊の事情であるとともに、歴史上よくある地域への「レッテル貼り」の一事例でもある。しかしここでも怪物チェーザレ・ロンブローゾが何度も出てきて、アルゼンチンのイタリア移民差別にまで影響を与えていることを知る。もちろん彼自身、イタリアの人だったわけだが。ユダヤ系だったのだろうか?ちょっと分からないが。

つい最近、亡くなってしまったマラドーナ。「いささか知的能力を欠いた人物というイメージが広まっているかもしれない。しかし、彼の言説を彼がそのときどきにおかれた状況に照らして再読するならば、それがきわめて論理的であり、核心をついたものであることに驚かされるであろう」(180頁)。「マラドーナはきわめて理知的であり、自分の周囲の状況がよく見えている」(181頁)。かつ、彼はトリックスター的な役回りを引き受けていたという。「彼がプレーをするだけで、彼の意志とはまったく別に、社会の矛盾や問題点があらわになってしまうのである」(181頁)。その謎ときは、本書本文で。

[J0146/210412]