矢野真千子訳、河出文庫、2017年。単行本は多分2007年で、The Ghost Map は 2006年刊。

  • はじめに
  • 下肥屋 8月28日月曜日
  • 目はくぼみ、唇は濃い青色に 9月2日土曜日
  • 探偵、現る 9月3日日曜日
  • 肥大化する怪物都市 9月4日月曜日
  • あらゆる「におい」は病気である 9月5日火曜日
  • 証拠固め 9月6日水曜日
  • 井戸を閉鎖せよ 9月8日金曜日
  • 感染地図 その後~現在
  • エピローグ

19世紀ロンドンでコロナ対策に尽力した「疫学の父」、ジョン・スノー(1813 – 1858)の調査・啓蒙活動を辿った歴史読み物。少なくとも日本語では、スノーの事績についてまとまった本はほかにないような気がするから、ありがたい。

科学的探究のあり方、瘴気説のような先入見の根強さ、19世紀の都市環境の劣悪さ、科学的知見をわかりやすく可視化することの重要性など、さまざまな読み所。スノーのものだけでなく、協力者たちに関する描写もよい。とくに著者が重視するのは、スノーの発見や努力こそ、その後、人類に大規模な都市化を進めていくことを可能にした条件のひとつを成したという点。

エピローグでは、こうした歴史の本にしては異様なほど詳しく、未来のこと、すなわち、都市化の未来について語られている。新型コロナの世界的パンデミックが起こった現在から見ると、この長すぎるエピソードは一種の予言であったことが分かる。ここでジョンソン氏が、都市化した世界における将来の脅威として挙げているのは感染症と核兵器(によるテロ)だが、せめて後者は現実化しないでほしい・・・・・・。

[J0226/220115]