少し前に話題をさらった本、『AI vs 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社、2018年)。

第1章 MARCHに合格―AIはライバル
第2章 桜散る―シンギュラリティはSF
第3章 教科書が読めない―全国読解力調査
第4章 最悪のシナリオ

自分の観点から、ポイントを列挙してみる。

1)AIは、中堅以上の大学に合格できるほどの能力を備えてきている
2)将来、AIが現在の仕事の多くを奪ってしまう
3)AIがもっとも苦手なのは読解力
4)独自のリーディングスキルテスト(RST)を開発
5)もっとも重要な、中高生の基礎読解力があまりに低いのが問題
6)読解力と相関する因子は、読書やスマホ等ではなく、貧困
7)アクティブ・ラーニング含め、日本の教育が育てているのはAIによって題される能力
8)多読ではなく、精読・深読が重要かも

AIが苦手なのは(定義にもよるが)基礎読解力であり、かつその能力があらゆる生産的活動の基礎として大切というのはよく分かる。ただ、どうすればよいかと言えば難しいところもあって、小中高の教員自体に読解力の低い人も多いし、もっと言えば、日本社会には、機械的な「受験勉強」だけが勉強だとおもって、大人になったら勉強しない人が多すぎる。読解力が重要だと、どれだけの人が実感として分かっているかどうか。まさに、勉強しつづける大人と、そうでない大人とで分断が拡大している最中かもしれない。

一番、あやふやで、突っ込みどころの多い主張は「将来、AIが現在の仕事の多くを奪ってしまう」というところ。単純にそういうことではなく、まず第一に問題となりそうなのは、機械的受験勉強を脱することのできない日本が、国際競争に負けるというだろう。これももうすでに現実となりつつある。第二に、たしかにAIは多くの仕事を代替するのだけど、その結果なにが起こりそうかといえば、AI自体やソフトウェアやコンテンツの開発を含む「AIにできない高度な仕事」と、「AIにやらせるよりも人にやらせた方が安い仕事」に分断されるということ。そうして、前者の「人間性を発揮する仕事」と、後者の「下働き的な仕事」とで格差が拡大するだろうということ。後者の仕事は、ほとんど定義上、ごく低賃金のものになるはずだ。社会保障制度で格差を補う動きが、どこまで社会的に支持され設計されることになるか。

だから、結果として、著者による次の予想は、たしかにありえるシナリオのように見える。「私の未来予想図はこうです。企業は人不足で頭を抱えているのに、社会には失業者が溢れている――」(273)。というか、新型コロナ禍のもとにある現状にも当てはまって見えるが、産業構造の変化・変動には必然的に生じる状況ということなのだろうか。

[J0239/220224]