角川ソフィア文庫、2022年。もとは角川選書として、1992年出版。

第1章 古代の殯―凶癘魂と鎮魂
第2章 殯の種類―殯の残存形態
第3章 葬墓と仏教―寺院と葬墓文化
第4章 中世の葬墓―念仏と浄土教
第5章 近世から現代の葬墓―墓と葬具

もとは講演録かなにかなのか、語り口調で、民俗の世界と仏教の世界を縦横無尽に行き来しながら「五来史観」が示されていて、著者の学問の真髄をよく知ることのできる一冊。著者の博覧強記ぶりはさることながら、まだまだ民俗的事象が生きていた時代だから成立した学問のあり方だとも思う。「私は歴史的には一種のオプティミズムがあって、必ず分かるという自信をもっています」という姿勢も、今はなかなか保つことが難しい種類のものだ。

著者は、日本の葬送史の「主発点」に、風葬とそれにともなうモガリを置き、古代の文献にみえる葬送や、全国の両墓制、あるいは沖縄の風葬といった事象をその展開として理解する。たとえば、法隆寺夢殿は八角円堂という形態からして廟や霊屋であり、モガリの形を踏襲した聖徳太子の廟なのであると主張しつつ、梅原猛の太子怨霊説を斥ける(82, 86)。

著者の理解では、もともと仏教は霊魂を認めないはずが、「日本仏教は仏教の誤解から出発し」(105)、仏教が死者の霊の供養に働く場を得たのだと。同時に著者は「葬式は非常に大事な仏教の宗教活動の中心になります」(107)と葬式仏教の価値を肯定して、「人の嫌うものをすることが宗教者です。霊の実在を信じている庶民のほうが葬式に非常な重要性を認めて、僧侶が葬式の重要性を認めないと、だんだん葬式は精神を失ったものになっていくと思います」(106)と断言している。

たくさんの情報を駆使しながら、はっきりした著者の見解が示されていて小気味よささえ感じられる書となっている。

[J0252/220319]