副題「英国における民俗フットボールの歴史と文化」、春風社、2022年。

序章
第1節 問題の所在と目的  
第2節 フットボール研究の前提
第3節 これまでの民俗フットボール研究
第4節 本書の構成

第1章 民俗フットボールの消滅と存続
第1節 消滅した民俗フットボール
第2節 英国に存続する民俗フットボールの実態
第3節 消滅、存続する民俗フットボールの多様性の意味

第2章 存続する民俗フットボールの変容
第1節 存続する民俗フットボールの変容内容
第2節 存続する民俗フットボールをめぐる状況の変化
第3節 存続する民俗フットボールの歩んだ変容の方向性

第3章 カークウォールのバー・ゲームの民族誌
第1節 カークウォールの概要
第2節 カークウォールのバーの起源と歴史
第3節 カークウォールのバーのゲーム概要
第4節 カークウォールのバーにみる伝統の継承と発展
第5節 カークウォールのバーの意味変容―伝統行事からコミュニティ統合の活動へ
第6節 カークウォールのバーの存続

第4章 民俗フットボールの存続・継承の現代的意義
第1節 民俗フットボールの存続・継承の文化・社会的解釈
第2節 現代スポーツへの発展的提起
第3節 民俗フットボールの存続・継承の教育的意義

終章
第1節 研究の成果
第2節 研究の今後の展望

イギリスの地域に点々と残るお祭りとしてのモブ・フットボールの調査研究。もっとも、モブ・フットボールとはそれを抑圧する側の呼称だったとして、本書ではこれを「民俗フットボール(folk football)」と呼んでいる。

現在、17ヵ所で民俗フットボールが生き残っているそうだが、筆者は20年以上をかけてそのすべてを見学したというから凄い。一番力を入れて調査をしているのは、第3章で扱っているカークウォールの「バー・ゲーム」だが、カークウォールといえば、イングランドに対しては田舎であるスコットランドの、それも最北端の離島。日本でいえば利尻島みたいな。

おもしろいのは、今日では民俗フットボールの方が、近代的なタイプのスポーツよりも、良い意味での「自己規律」が機能しており、暴力のエスカレートが防がれているとの見方。「近代スポーツではルールが厳格され、ゲームの制御が審判に任される分、プレーヤーの自己規律は重視されず、相手を打ち破ろうとする競技性、あるいは争覇性の強い世界が展開されているのである」(148)。対して、「同じコミュニティの住民が競い合う今日の民俗フットボールでは、暴力は内在的な自己規律によって制御され、ゲームを通してコミュニティの結束が重視される。そこでは、ゲームは、地域社会の統合や住民のアイデンティティの涵養に結びつく共同体的な行事を志向しているのである。それに対して近代スポーツにおけるゲームには、ある意味で異なるコミュニティ間で争われた近代以前の民俗フットボールと似通った状況がある」(148)。つまり、今日の民俗フットボールには、相手に対する配慮や暗黙の了解が働いているということで、暴力性のレベルはちがっても、あるいは近代以前もそうだったかもと想像したくなる(死者は出たのだろうけど)。もっともここは、別の用法もある「自己規律」という言葉じゃない方が良いと思うけど。

次の指摘も。「民俗フットボールの最盛期は、定説ではそれらの多くが消滅したといわれる産業革命後の19世紀末であった…」(304, cf. also 152)。その根拠は、中房敏朗による歴史研究で、背景や理由等は論じられていない。

民俗フットボールの多くは、告解火曜日に開催されてきた。それはもともと、非キリスト教的なこの行事を、できるだけキリスト教化しようという目論見かららしい。カークウォールの場合は、クリスマスと元日に開催するとのことで、今度はそれが、通常のやり方でクリスマスを祝いたい人たちの不興を買ってしまって、存続の妨げのひとつになっているのだとか。

それにしても今は、YouTube であれこれ関連映像を眺めながら、この種の本を読めるのが楽しい。

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