副題「現代モンゴルにおける宗教とナショナリズム」、晶文社、2022年。

第1部 グローバル世界を呻吟する
1.シャーマニズムという名の感染症
2.地下資源に群がる精霊たち
3.憤激のライム
コラム あるマンホール・チルドレンとの出逢い

第2部 社会主義のパラドクス
4.秘教化したナショナリズム
5.社会主義が/で創造した「民族の英雄」チンギス・ハーン
6.呪術化する社会主義
コラム 深夜の都市でボコられる

第3部 連環する生と死
7.シャーマニズム、ヒップホップ、口承文芸
8.生まれ変わりの人類学
コラム 古本屋のB兄

第4部 民族文化のゆくえ
9 コスプレ化する民族衣装
10 モンゴル化”する洋装と匈奴服の誕生

「遊牧民」の幻想を離れた、現代モンゴル文化の諸相を描く。前半のテーマは、2000年代に大規模に生じて、2010年代半ばには縮小しているという、シャーマニズム・ブーム(本書はそういう言い方をしていないが)。それ自体は伝統的とは言いがたいが、シャーマンの地位が「おじい様」や「おばあ様」と、年齢階層と混合するかたちで表現されたり、ルーツからものごとを説明する災因論については、社会的基盤を有しているという図。

「社会主義による世俗化とは、実は宗教や近代の「呪術化」だったのではないだろうか」(223)。「社会主義時代、宗教の制度化された部分(寺院、経典、宗教的職能者など)が公的空間から排除された結果、仏教は、呪術的な部分(観念を含む)に特化して社会空間の中で生き残っていったということである」(309)。

あるいは、モンゴルの「民族衣装」デールの晴れ着化という主題。また、従来のデールを中国から押しつけられた「満州デール」だとして、反中を象徴する「匈奴(フンヌ)デール」が台頭してきているという。中国は中国で、おなじく清朝時代様式のチャイナドレスを避けて、しかも結果としてこうして再発見された「漢服」は、匈奴デールとよく似たデザインなのだという。

世俗化や社会主義をめぐる議論にしても、逆張り的な主張にみえるが、モンゴル社会は実際に、西洋的な標準からすれば「ねじれて」みえる歴史的経緯を辿ってきているのだろう。

[J0291/220903]