副題「ギリシャ・トルコ辺境気候」、新潮文庫、1991年、原著1990年。

ギリシャ編:アトス――神様のリアル・ワールド
 さよならリアル・ワールド
 アトスとはどのような世界であるのか
 ダフニからカリエへ
 カリエからスタヴロニキタ
 イヴィロン修道院
 フィロセウ修道院
 カラカル修道院
 ラヴラ修道院
 プロドロムのスキテまで
 カフソカリヴィア
 アギア・アンナ――さらばアトス
トルコ編:チャイと兵隊と羊:21日間トルコ一周
 兵隊ほか

ギリシャというけど、アトス縛り。アトスの紀行文ということで読んでみた。各修道院で出される食べ物の話ばかりだが、ひとつのリアリティとしておもしろく読める。

「ギリシャ正教という宗教にはどことなくセオリーを越えた東方的な凄味が感じられる場合があるような気がする。とくに夜中の礼拝を階段の隅からそっと覗き見ているような場合には。そこにはたしかに、僕らの理性では捌ききれない力学が存在しているように感じられる。ヨーロッパと小アジアが歴史の根本で折れ合ったような、根源的なダイナミズム。それは形而上学的な世界観というよりは、もっと神秘的な土俗的な肉体性を備えているように感じられる。もっとつっこんで言えば、キリストという謎に満ちた人間の小アジア的不気味さをもっともダイレクトに受け継いでいるのがギリシャ正教ではないかとさえ思う」(51)

村上による『古寺巡礼』風の記述? これ以上突っ込んだ考察をしてはないが、多くが感じるギリシャ正教の第一印象の記述と考えれば。

トルコ編になると、彼の地の文化・社会というよりは、村上節ばかりが印象に残る。それはそれですごいことだよね。

[J0305/221077]