同文館、1990年。

第1章 『アナール』の誕生
第2章 ブローデルとブローデルの世界
第3章 物価史とエルネスト・ラブルース
第4章 時系列史の課題と動向
第5章 歴史人口学の諸問題
第6章 心性史と歴史人類学
第7章 『アナール』学派と社会史

30年以上も前の本で、この分野における基本図書にまちがいないだろうから、今さらなんだろうけども、良書。たいへん勉強になる。分かるようで分からないところも多かったアナール学派のあれこれ、とくには学派内の多様性について、理解が深まった。著者の竹岡さんは、パリに留学してブローデルの講義を受けた方とのことで、現在90歳になるはずだが、ごく最近、2020年にも上・下巻に及ぶ大部の研究書を出版されている模様。

狭義のアナール学派だけを扱うのではなく、周辺領域との関係にも目配せがなされているのがありがたい。境界横断を旨としたアナール学派がとくに影響を受けたのは、地理学、社会学、経済史であると。そのなかで、社会史・心性史・長期史・時系列史・歴史人口学等の潮流の進展に与することになったと。ただし、「理論的企てにたいする頑強な拒否」がアナール学派の特徴であって、それがその発想の源泉のひとつであるデュルケム学派と一線を画する点であり、(僕の解釈ないしパラフレーズでは)アナール学派があくまで歴史学である理由となっている。

本書でもたびたび触れられているが、たしかにアナール学派の存在を念頭におくと、ミシェル・フーコーの仕事の位置づけについても見通しが立ってくる気がする。このほか、個人的には、ガブリエル・ル・ブラーズの宗教的社会学との関係についてさらに知りたい。

[J0316/221204]