副題「移動から現代を読みとく」、ちくま新書、2021年。

序章 移動という経験
第1部 グローバリゼーションの時代
第2部 移動とは何か
第3部 場所の未来
人の移動をどう考えるか

おもに人の移動としてのグローバリゼーションの経緯や諸テーマを語る。後半は、日本における移民の問題を「再考」する。奇をてらわない記述で教科書的とも言えるが、21世紀以降に更新されたグローバリーゼーション理解として、勉強になるところもあれこれと。

「労働力の再生産は、国家が果たすもっとも重要な経済的機能の一つであり、近代国家は、教育や医療を通じてその役割を担ってきました。失業者のプールとしての産業予備軍は、社会政策などを通じて、さらには福祉国家政策によって、最低限の生存を制度的に保障してきたのです。しかし、国民経済の外部における無尽蔵の労働力プールの利用可能性が開けたことによって、すなわち産業予備軍がグローバル化したことによって、国家による生命の再生産への介入は限定されることになります。これは福祉国家的な社会保障政策の後退を意味します」(123)。いや、重大。同じく・・・・・・「再生産労働に従事する女性移民の増加にもかかわらず、労働力は基本的には市場経済のなかで生産することができません。それは国家と家族というある種の共同性の集団のなかで再生産されるほかないのです。そしてその再生産を保障する制度は、近代国家においてはナショナルな領域のなかで制度化されてきたのであり、現在においてもそうです」(186)。

「総力戦体制期は国民国家と移民との関係が劇的に変化した時代であり、民間人ならびに植民地の人々が戦争へと動員され、きわめて短期間に、しかも世界的な規模で人が移動した、もう一つの移民の時代でした。植民地主義という暴力的な労働力化が、世界戦争の過程で一挙に推し進められたわけです。その意味で総力戦体制は、植民地地域を含めた未曾有の規模での世界的な原蓄過程、すなわち新規の追加的労働力供給確保だったとみることもできるでしょう(C・メイヤスー『家族制共同体の理論』、ジェームズ・C・スコット『ゾミア』)。戦後の占領期は、その原蓄過程で析出された労働力が、独立国家となった発展途上国政府ならびに占領軍の権力によって産業化へと組み込まれた時代でした。戦時に析出された労働力は、戦後に世界的規模で展開する資本のグローバルな労働力編成の前提条件を生み出す基盤となりました」(181)。

[J0320/221226]