角川文庫、2019年、原著2012年。詩人の伊藤比呂美さんが注目して、映画化もされたエッセイ漫画。伊藤さんが解説で、岡野さんの絵を「感じいい。センスいい。巧い。そしてむちゃくちゃかわいらしい」と評しているけど、たしかに専門の漫画家ではなかったとは思えないほど絵がうまい。

認知症の母の日常生活と「幻覚」、過去の回想などが入り混じった世界を描いて、こうまとめてしまえばずっと同じ内容なのだけど、まったく冗長な感じがしない。たんに考えてつくった作品ではなく、ひとつひとつに、そうした世界にひたった長い時間が感じられるからだ。

ほとんど取り上げない漫画をここで取り上げたのは、「文庫特別付録」の漫画のひとつが凄まじかったから。岩松了さんと会ったら、著者自身とよく似ていた、というところから凄い幻想が展開。心温まる介護漫画、と言えないこともないが、それには尽きない、濃密な幻想作品であることがよく分かる。

[J0319/221225]