副題「カンブリア紀大進化の謎を解く」、渡辺政隆・今西康子訳、草思社、2006年。

第1章 進化のビッグバン
第2章 化石に生命を吹き込む
★第3章 光明
第4章 夜のとばりにつつまれて
第5章 光、時間、進化
第6章 カンブリア紀に色彩はあったか
第7章 眼の謎を読み解く
第8章 殺戮本能と眼
第9章 生命史の大疑問への解答
第10章 では、なぜ眼は生まれたのか

原著は2003年、有名な本をようやく読んで、そしてやっぱりおもしろかった。

カンブリア大爆発が、視覚を発達させた三葉虫の登場を契機にして生じた捕食関係によって一挙に生じたとする「光スイッチ」説。訳者の渡辺さんは「軍備拡張競争の開始」と表現している。

カンブリア爆発では、すべての動物門で突如として硬い殻が進化している。少量の光しか存在しない深海のような場所では、生物の個体量や体積量は変わらなくても、生物種の多様性が低い。進化速度を計算すると、魚類のような像形成眼の進化は50万年足らずの短い期間で達成されうる。5億4400万年前から5億4300年前のあいだの100万年間のうちに視覚は生まれた。この期間には太陽光に関する環境変化が背景としてあったかもしれないが、この点は保留されている。いわばこのとき、地球の動物に光が灯されたのだ。先カンブリア期の捕食行動はかなり行き当たりばったりだったが、視覚の誕生はこの状況を一挙に変えた。三葉虫こそ眼をそなえた最初の動物であり、能動的捕食をはじめた動物であった。

この本の読みどころはひとつではない。ひとつ目はもちろん、こうした光スイッチ説の提唱だ。二つ目は、進化に関する仮説を検証する手法の好例となっていること。化石を分析し、現生生物を研究し、光の物理的性質を学ぶ。太古の事象に関する推論であるにもかかわらず、その証拠集めには手堅さが感じられる。これらと比べたら、認知心理学的な進化論がとっている論法がいかに脆弱か。

三つ目は、視覚にまつわる生物たちの生存戦略の驚くべき多様性、パノラマ。本書全体がそうだけども、とくに「第三章」。光スイッチ説の提示に対しては寄り道に近いかもしれないが、この章は、何度でも読み返したい、優れた自然史の読み物になっている。

[J0325/230105]