副題「写真家たちの肉声から辿る」、光文社新書、2022年。

第1章 土門拳と植田正治
第2章 東松照明と森山大道
第3章 荒木経惟と須田一政
第4章 杉本博司とマルセル・デュシャン
第5章 佐藤時啓と森村泰昌
第6章 畠山直哉と九〇年代以降
終章 オルタナティブなまなざし

それぞれの写真家たちに詳しい人からみたらどうか分からないが、詳しくない僕からすると、とても良くできた良書。大学での講義をもとにした本らしい。

写真家たちの思想を紹介していくつくりだが、ふたりずつ対照させながら構成していて、ポイントが掴みやすい。また、せまい写真界内で話を進めるのではなく、現代芸術の広い流れのなかで、それぞれの写真家や写真表現を位置づけているところに特徴がある。必ずしもこれら写真家個人に興味がなくても、「写真とは何か」「写真という表現形式の意味とはなにか」という問題に関する発想のあれこれを紹介した概論として読める。

たとえば、ふつう、本書に取りあげられている森村泰昌などは写真家とは呼ばない気がするけれども、写真を通じた表現を追究していることはまちがいないわけだからと、逆に納得させられる。つまり、どこかで「これは正しい写真ではない」と思っている自分自身の思い込みに気づかされる。

本書内に実際に掲載されている写真の点数は多くないので、それぞれの写真家の写真集を眺めながら読んだりすると、いっそう興が深そうだ。

[J0336/230208]