たまたま手に取ったブータン本が2冊。

GNH(Gross National Happiness)すなわち国民総幸福の概念はブータン発信で有名だが、本林靖久『ブータンと幸福論』(法蔵館、2006年)はその辺りの関心から、ブータンの社会と宗教を紹介。

もう1冊は、チベット仏教研究者としてブータン社会に関わり、30年以上仕事を続けてきた著者による、今枝由郎『ブータンに魅せられて』(岩波新書、2008年)。

一番おもしろく、ブータンの様子を実感として感じられたのは、今枝本の前半、ブータン入国までの苦労や、図書館のようすを描いた体験談のところ。図書館長の高僧ロポン・ペラマの生き方の、実直さ真摯さが印象に残る。別の高僧の葬儀の話、ブータンの人にだけは荼毘の煙が「ふつうに」白鳥になって見えていたといったエピソードも。

今枝は、GNH概念についても、ある程度相対化しながら記述をしている。この本に説明があるとおり、GNH概念は、GNPないしGDP概念が生活実感と乖離するようになってきた結果、注目されるようになったものだろう。もちろん現在のブータン社会にも暗い面がないはずがないが、やはりここで描かれている人々や社会のあり方には心惹かれざるをえない。

もう一点、思いつくままに付けくわえておけば、この社会の中心に位置している宗教すなわち仏教について、それは個人の信仰であるとともに、同時にやはり社会全体で共有され維持されている信仰であることが決定的に重要とみえる。

[J0006/170508]